第6話 敵とみる

刺客ともいえる未知のサーバーに苦戦している。どうにも連係ミスが目立ちうまく守備範囲を重ねることができない。最終的にネコが意地で拾い上げ智につなぐ。ブロックは息のそろった動きでピッタリと智についてくる。智が選んだのは、パワーで壁を崩す剛。剛は全身の力を載せてスパイクを打ち、相手コートにボールをたたきつける。ようやく一点。だがそこまで来るのに三点も取られてしまった。現在6対4。二点差だ。黄金が作ってくれたリードを失う形となってしまったが、それでも成果はあった。どうやら中学三年の一年間同格以下の相手ばかりと戦ってきたからか、うぬぼれてしまったらしい。五点差がついた時の遊べる発言は、いつも五点差もあれば遊んでいても勝てていたからである。しかし僕はまだ一年生。少なくとも同格以上の相手ばかりだ。すこしだけギアをあげようか。そうと決まれば早くサーブが打ちたいな。相手コートからボールを受け取った


「れ~ん。はいボール。ねぇ提案があるんだけど」


「手加減なら聞かないぞ。智は言ってないがこの試合はスコアボードがとられてる。この成績でお前の隣で戦えるのかが決まる」


「へぇ、だからローテ蓮が隣にいるんだ。そっか、それなら仕方ないね。もしかしたらこの後、ちょっと大変なお願いするかも、黄金か剛、それか相手WSの動き見といて」


「ん?何をするかは知らんが分かった」


「頼んだよ」


僕の言葉にうなずいた蓮を確認した後、コートに戻る。相手コートの面々を確認し、最後に根津さんの顔を見る。他の人らは追いつきそうになった、まだ希望のある点差に自信でみなぎっているようだが、根津さんは眉をひそめながら一歩下がっていた。理由は明白、僕たちの後ろから感じる気迫を警戒しているからだろう。蓮は選抜で出会った時から僕の激励でやる気を引き出す事ができた。だから試合中はよく話しかけるようにしてる


高木さんが腕を上げる。蓮は一呼吸おいてからボールを高く上げる。先ほどバックを打った人にボールを落とす。セッターの定位置にボールがきれいに帰り、根津さんにセット。こちらは大、剛、僕の三枚でブロックに飛ぶ。相手チームはAパスのほとんどを根津さんにトスするから、根津さんをマークしてれば簡単に三枚正面に入れる。根津さんはブロックをよけるようにスパイクし、蓮が拾う、山なりの優しいボールで智に入る。こちらは全員が助走距離を確保した大がクイックで入ってくるが智が選んだのは、レフト、剛だ。剛のスパイクは相変わらず豪快で、ブロックで跳ね上がりライト方向に飛んでいく。これはブロックアウトかな


「洋一!カバーよろしく!」


と、根津さんが壁にぶつかる勢いでボールを上げてセッターにつなぐ。だが、根津さんの体制が崩れている今、だれを選択するのか逆に絞れなくなった。セッターが選んだのはバック、バンクセンターだ。大がブロックに入ってそれ以外がレシーブに、僕は少し横によけてすぐに飛べるようにする。バックセンターが打った瞬間に剛でも聞かないような打球音が響き反応できないスピードで後ろに飛んでいく。蓮はかろうじて手を伸ばしたみたいだけど触ることはかなわずに地面に落ちる。しかし線スレスレだし、ワンチャン…そう思いながら祈るように横のスクリーンに注目する。


横のスクリーンに表示されたのはアウトの文字と再現リプライだった。思わずホッと息を吐き、ネコを中心にラッキーラッキーと声を出した。相手コートでは、バックの人が根津さんに謝っていた。ギリギリアウトになったが、蓮以外は反応もできなかった。ネコでもギリギリかもしれない。練習ではわからないことだらけだな。そういえば僕たちはラリーらしいラリーを行っていないし、まだ一セット目だ。何とかなるだろう。少し苦笑いしながらローテの位置に戻る。軽く肩を回していると蓮に声をかけられた


「聖、さっきの」


「ん?さっきのって何?」


「あの、バックセンターのスパイク、聖は反応できるか?」


「どうだろう。少なくとも、前にいるときは反応できないね」


「そうか、聖でも無理か」


「僕にしかできないのなら頑張るよ」


「いや、次は反応する。その次は上げて見せる」


「…そう、チャンスは少ないけど行けるの?」


「ああ、やって見せるさ。ちゃんと見ておくつもりだしな」


蓮が力強い瞳で僕をまっすぐ見つめる。この蓮なら心配しなくても何とかなるだろう。これならもう数発は蓮のサーブが続くかもしれないな~


8対4、一応ダブルスコアだけど、安心はできない。もう相手が強いってことは知ってるしね。十点差でも、十五点差でも、油断はせずに叩き潰す

口角が上がっているのがわかる。楽しい勝負になりそうだ

笛が鳴る。蓮は一呼吸入れてから、先ほどと同じ位置にサーブを入れる。どうやらあの人一点狙いらしい。今度は少し乱れるパスになった。蓮はどの状況ならあのスパイクが出てくるのか調べてるみたいだ


相手セッターはレフトにセット。根津さんは右利きだ、ストレートをしっかりと締めているのを確認してクロス方面を打たせないように手を伸ばす。このローテはネコがいない。代わりとして蓮がいるがポジショニングも含めネコのほうが総合のレシーブ力は高い。だからこそブロックの高さが必要になる


根津さんはフェイントを選択した。ブロックのすぐ後ろを落ちていくボールが見える。智は動き出せていない。僕は空中で足を延ばす。背面だからかかとで上げる形になるけれど、僕ならできる!やれよ、エースだろ!叩き潰すんだ、こういう場面で拾うのが一番流れをつかめる!

聖のかかとで上げたボールがセッターの定位置に向かって山なりに飛んでいく様子に相手チームは目を見開いていた


「な、真後ろなんだぞ!?」


「僕はエースだからね!智!」


「わかってますよ!」


智は僕の声に返事をしてからセンターにボールをセット。少し無理な体制でクイックに上げたからか少し後ろ気味だが、問題なし!僕は着地と同時にそのボールを打つために走って飛ぶ。僕のスパイクに追いついたのは二枚、関係なし!僕はそのボールをブロックの上から叩き落す。相手チームは最高でも僕くらいの身長の人しかいないし、跳躍力も僕以下だ。さっきはフェイントでブロックの後ろに落とされたから、僕はスパイクでブロックの後ろに落とす。ボールはコートに叩きつけられ、大きくはねた

僕は興奮が抑えきれずに根津さんに話しかける


「キャプテンさん、キャプテンさん。さっきのフェイント、すごくうまかったですね」


「…おま、はぁ。お前に拾われたがな」


「それはまぁ、僕なんで。また面白いの見せてくださいね」


「次は取られないようにする!」


僕より小さい根津さんが、僕のことを指さしながらそう宣言する。なんか、小動物を相手にしているような気持ちになる。そんな小さくないけどね


「聖が落とすことなんてないだろ。それよりもボールください」


「あぁ、どーぞ。小次郎のことは気にしないで、あいつはムキになりやすい性格なんだ」


リベロさんがそう言いながらボールを渡し、根津さんを引っ張っていく。引っ張りながらチームメイトに声をかけているから面倒見のいい性格なんだろうな

そういえば蓮もムキになりやすい性格だったなと、選抜戦を思い出していたら、笛の音と同時にボールをたたく音が聞こえた。そのボールは根津さんとサイドラインの間に飛んだ。根津さんは正面に入ろうとしていたが途中で動きを止めてスクリーンを見る。そのスクリーンにはアウトの文字が大きく映し出されていた


「ナイスジャッチ!」


「おっしゃ俺のサーブ!」


「ナイサー!」


蓮がネコと変わる途中で僕に、すまん。と声をかけられた。気にしなくていいのに

正面を見やる、なぜか根津さんと目があった気がして笑みがこぼれる。僕のところまで飛んできてくれると面白くていいんだけど



選手情報メモ


財前 黄金 《ザイゼン コガネ》

15歳 186cm 右利き

現在のポジションはウィングスパイカーだが、中学でミドルブロッカーの経験もある

明るい茶髪の七三で茶色の瞳を持つ


中学の頃は孤立しがちでサーブばかり練習していた。そのためサーブの強さでレギュラーに選ばれていた

バレーのために金を惜しみなく消費するためチームメイトには引かれている



あとがき

試合をいい感じにショートカットするのが難しいですね、あとは題名も。なんなら題名の方が本文を考えるより頭を捻っているかもしれません

良ければ評価お願いします

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