第5話 1セット目 物色
「よろしくお願いしまーす」
と、植木高校の面々の大きな声が響く。監督や選手達が入ってきてこちらに駆け寄ってくるため僕たちも立ち上がり急いで並ぶ
「誰が挨拶するの?」
「聖に決まってるだろ、頼んだぞ」
「OK、こんにちはー月天高校です。今日はよろしくお願いします!」
僕の声に続きチームメイトも声を出す。挨拶を交わしたあとそれぞれの練習のため散って行く。そういえばコートをひとつしか用意してなかったな。ゲームを始めるのはある程度の練習が終わったあとらしいし、いつもやってる練習に混ぜてもらえるか交渉しよう
監督さんに近付き少し話をする。最初は少し渋られそうだったが、相手チームのキャプテンさんが一言言ってくれたおかげで頷いてもらった
相手のキャプテンさんは180cm程の身長だが、チームメイトに信頼されているし、対人も一番うまい。蓮に聞いてみるか
「ねぇ蓮、あの人知ってる?」
「ん?あぁ植木のキャプテンか。あの人は根津 小次郎。178cmであのチームのエースだ」
「え!そうなの!?」
「あぁ、あの人の特徴は」
「待って!試合開始の時に答え合わせしよ!練習の時に見つけ出してみせる!」
「フッわかった。頑張れよ」
「月天さーん!そろそろサーブ練習始めまーす」
サーブ練習は肩慣らし程度に飛ばす。この後2セット先取を2回やるらしいので最初の試合の1セット目で肩を作るつもりだ。体力は絶対にこっちの方がない。変えもいない。だからこそサーブだけは確実に入れなければならない
相手チームを見てみると根津さん以外に期待できるような人は居ない。根津さんはボールを散らばせて入れているが他のメンバーは時々届かなかったり狙ったところに当たってなかったりする
「ラストいっぽーん」
他の人を色々見ていたらサーブの時間が終わってしまった。3回くらい打ったら観察に徹してたから全然打ってないな。まぁいいかネットにかけてみよう
次はスパイク練習。ライトとレフト、センターに分かれて打つ。僕は両打ちなので左右で打つ。ジュニアの監督には左だけでいいと言われてしまったけど、両方鍛えた方が味方のトスが乱れても合わせられる気がする。そのままスパイク練習を終える。根津さんを見ていたけれど、身長の割には打点が高いのと飛ぶまでが早いくらいしか分からなかった。それしかなくてもあのチームでは一番強い。まだ何か隠していることがあるのか?
高木さんから試合を始めると号令が入った。主審は高木さんにやってもらい。線審、副審はカメラによって判断する。いつもの3対3の審判が高木さんになっただけだ
「はい、皆さん。作戦はないです。とりあえず1試合目は私たちができることをできるだけやりましょう。相手チームを侮ることはないように…と言っても皆さんには必要無かったようですね」
「つまり全力で戦えってことだろ?」
「作戦がないのは考えなくてもいいから簡単だね!」
僕は蓮から水筒を受け取りながら先程の答え合わせをする
「で?あの人の特徴はわかったか?」
「わかったことは2つ。跳躍力とスピードが高いってこと。他にもなんかある?」
「ふむ…八割正解だな。あの人の特徴はもうひとつ。空中での選択肢が多いことだ」
「へぇー?」
「指先に当てたり、穴に叩き込んだり、そういう小技も使うし強打も打てる。あの人の実力は全国レベルと言えるだろう」
「でもあそこは中堅高なんでしょ?名門には行かないの?」
「あそこにいるメンバーが小学校から一緒なんだと、それでそのメンバーで戦いたいらしい」
「なるほど、面白い人だね!あ、そろそろ始まるや。コイントス行ってくる」
「勝ってこいよ、サーブから気持ちよく始めたいだろ?」
「まっかせてよ!僕、最近自販機のヤツ当たったんだから!」
高木さんの元に行く。根津さんもそこにいて、握手をしてからコイントスをする。根津さんが年上だし、裏表選びな?と言ってくれて表を選択したんだけど…高木さんの手の甲にいるのは裏。負けましたね…黄金がいる僕達にサーブ権を渡すわけがなく、サーブレシーブから始まった
「自販機で運を使い果たしたみたいだな?」
「うーるーさーい。今日の蓮いつもよりちょっとイジワルだよ」
「いつもこんなだったぞ」
「うっそだぁ」
「何言ってんだこいつら」
「気にしない方がいいですよ。剛さん、レシーブミスには気をつけて」
「ネコがいるし大丈夫だろ」
今回のローテーションはS1ローテ、セッターが後衛ライトにいるローテだ。相手チームは根津さんが前衛レフトにいる。つまりこちらと同じS1ローテだ。
――――――――
聖 蓮 黄金
剛 大 智 ネコ
このローテの目的はできるだけ早く切って、さっさと黄金に渡すことだ。だからこそネコに全てがかかってる。ネコが綺麗にあげればこちらの勝ち
今回のサーバーはサーブ練習の時にフローターを打っていたはずそれはネコも分かっているはずだろうし僕は何も言わず助走距離を確保する
高木さんが腕を上げた。そろそろ始まるな
笛がなったと同時にサーブが飛んでくる。智が抜けてくるところを狙ったようだがネコが素早く入り丁寧にあげる。僕は智がトスの体制に入ったのを確認し右手を上げながら2歩下がる。そうすれば右手に合わせてトスを上げてくれるはずだ。智がセット、蓮がフェイクで入る。ブロックで釣られたのは1枚。まぁ、3枚でも関係ない、狙うはリベロ。僕はエースだからね。リベロを崩して流れを掴むのが仕事だ。まずは手始めに強打を!
リベロの右端をかすったボールにリベロは反応も出来ずに佇んでいた。蓮がハイタッチをするために走ってきた。大きくハイタッチをしてから相手コートを覗く、根津さんがチームメイトを元気付けていたがリベロは少し沈んでいる印象だ。僕がそうなって欲しいと思っているだけかもしれないが、とりあえずは黄金にサーブが回ったし、一旦は任せていいだろう。お相手さんはどこまで黄金のサーブを取れるんだろうか。一発目、角ギリギリに突き刺さるサーブを、二発目、根津さんとリベロをかするように曲がったサーブと、多種多様なサーブを見せつけた6点目、根津さんが少し後ろに下がっていた。それに続きセッターもレシーブに加わっていた。どうにかあげたいという気持ちの表れだろう。そのおかげか後衛レフト、セッターがサーブを上げて少し乱れる形となったが前に飛んだ。リベロがそこに入り、根津さんにセット、僕達もブロックに入るが少しの隙間を縫うように間を通されボールが落ちた。黄金のサーブは終わってしまったが、それでも5点差、少し心のゆとりができた。ちょっとくらい遊んでも大丈夫かな?なんて考えていたら蓮に頭を小突かれた
「遊ぶには早いぞ」
「え?なんで僕の考えてることがわかったの?」
「お前の顔が遊ぶ時の顔してた。選抜でも出てたぞ」
「え、うそ」
「ほんと、ほらレシーブだ、お前のことだからミスはしないだろうがはしゃぎ過ぎで怪我するなよ」
「そんな、子どもじゃないんだから」
「高一は子どもだろ」
「それじゃあ蓮も子どもだよ!」
「ねぇーえ二人とも早く位置についてよ!高木さん困ってるよぉ!」
「蓮がわるいでーす」
と、無実を主張しながら位置に着く。相手のサーブは大した印象が無かったのでネコに任せておけば大丈夫だろう。そう思ったのに
高木さんが笛を鳴らす。少し深呼吸をしてからボールを上にあげた。ジャンプサーブ!練習では1回もやってなかったはず!そのボールはネコと黄金の横を真っ直ぐ飛びエンドラインに突き刺さる。カメラの判定はイン、線の上だ。
相手サーバーのガッツポーズにチームメイトが集まっていた。その間に僕たちは中央に集まり軽く話す
「ごめん、目では見えてたんだけど…」
「ネコが反応できないって相当だろ?どうする」
「もう一度、やってみましょう。目では見えてたんでしょう、上げてくれれば繋げます」
「ん、ごめん」
「ネコ」
「なーに聖くん」
「信じてるよ」
僕の言葉に姿勢を正して頷く。うん、きっと大丈夫だろう。Aパスとは行かずとも上げてくれるはずだ。高木さんの腕が上がる。まだ四点差。蓮の言う通り遊ぶには早かったみたいだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます