第2話
ルータオに向かう車内にて。
「藤咲様はどうしてこの任務を受けられたのですか?」
「自分探し…ってとこかな。あと、キャブルースで出世すると、肩身が狭いから…」
「成程、確かに嫌味な…失礼、少々性格に難のある方々がほとんどですからねえ。」
陽歌は運転手と世間話を弾ませていた。
「ねえ運転手さん。ルータオって、どんなところなの?」
「ルータオは都市群国家スイの最西端に位置する、有翼族が暮らす宗教都市です。」
「宗教都市?」
「ええ、なんでも、かつて宗教戦争によって壊滅寸前だったルータオに、本物の神が舞い降りた、とのことです。まあ、実際は人格者というだけの、ただの天使族でしたが。」
「その神様っていうのが、そこで守護られている…?」
「はい。『先輩』が1人、エミ先輩と言われています。」
運転手の話では、「エミ先輩」が空から舞い降りて後光を放つと、どの神を信仰するかで揉めていた市民は、ひとえに先輩を信仰したとのこと。
「さあ、着きましたよ。ここから先はルータオの案内人さんにバトンタッチです。」
「ありがとうございました、運転手さん。」
車から降りて、少し歩くと背の低い、白い翼が生えた少年が立っていた。
「あなたが、案内人さん?」
「そう。私が案内人。今はオトギと呼んでほしい。」
少年は年齢に見合わぬ低い調子で言った。
「よろしくね、オトギくん。」
(翼…天使族ね。なら、もしかしたら私より長生きかも。)
天使族は長命種だ。少年の姿をしていても、50年以上生きているなんてことはザラにある。
(まあ、耳長族ほどじゃないけど。)
「何考えてるか分からないけど、行くよ。」
自分を興味深そうに見つめる陽歌を鬱陶しそうに睨み返して、オトギは言う。
「あっ、ごめんね。…行くって、どこに?」
「…『洗礼』さ。」
***
ルータオ中心街の教会にて。
「洗礼って言うから、何されるかと思ったけど…入国許可証の発行のことだったのね。」
無口な神官に監査員としての入国許可を貰い、正式に監査が始まった。
「監査って言っても、国の様子をレポートするだけだけどね。」
「…それ、仕事なの?」
「これも立派な仕事だよ。あなたには早いかもしれないけど…。」
「私だって、仕事くらいしてるよ。これも仕事だし。」
オトギは少しムッとして言う。
「そうなんだ…。どんな仕事してるの?淡々としてそうだし、書類整理とか?」
「…まあそんなとこ。それじゃ、宿は取ってあるから、今日はもう遅いし、そこに泊まって。はい地図。」
「うん。今日はありがとね。」
「何言ってるの、仕事だし。明日の朝10時に迎えに来るから。」
***
オトギと別れて宿に向かう前に、陽歌はちょっとルータオを散策することにした。
(あっ、あれ美味しそう。あっ!あれも!)
陽歌が気に入ったのは露店街だった。
(そうだ、今日の晩御飯買っていかなきゃ!どれにしようかしら…。あら、あれは…?)
陽歌の目に泊まったのは大きく旗のあがった1つの屋台だった。
おじさん天使の店員に恐る恐る話しかける。
「すみません、5個入りのやつ塩とタレでひと袋ずつ。」
「毎度!!!」
(…天使族は、鶏肉大丈夫っと。)
宿に着き、荷物を下ろすと、陽歌は露店街で買った美味しい焼き鳥を頬張りながらレポートにそうつけ加えた。
***
翌朝、荷物をまとめて陽歌は宿の前に経っていた。
しばらくすると、昨日の少年、オトギが走ってきた。…が、その性格は昨日とガラリと変わっていた。
「やあお姉ちゃん、よく眠れた?愛流様がお待ちだよ、早く行こう!」
「………え」
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