先の世ファンクラブ

ずんださくら

第1話

「あなた、世界旅行とか興味無い?」

「…はい?」

会長の提案に、陽歌はるかは目を丸くした。


ここはどこかに存在したかもしれない世界。

ここではかつて様々な方法で各地を平定し、ある理由で長い眠りについた「先輩達」を慕う部下たちが暮らしていた。

これは、そんな後輩たちの暮らしを見つめる物語。

始まりの舞台はこの世界の中心に位置する国「キャブルース」。その最高機関である第1議会だ。


第1議会会長、ミサキに呼び出され、緊張した面持ちで議会室へ向かったキャブルース公務員でありこの物語の主人公、藤咲陽歌を襲ったのは、ミサキの思いがけない提案だった。


「あなた、前に自分の所属を決められなくて困ってるって言ってたわよね?」

「ええ。個性も信条もない私には、どこで暮らしたいかも決められなくて…」

ミサキは髪色とおなじ薄い灰色がかった目を陽歌に向ける。

「あなた、割となんでもこなせちゃうからねえ。」

「いえ会長、そんなことは…」

「ミサキでいいわよ。謙遜もしなくていいわ。無理に決める必要は無いと思うけど、実際情熱があった方が楽しいし、たまたま大陸全土対象の偵察任務が入ったから、あなたにちょうどいいと思ってね。」

ミサキは自由人だった。その権力に見合わぬ気楽さから、恨みを買うことも多いのだが…

「事情は分かりましたよ。しかし、そんなお金も交通手段もないし、何より時間が…」

「いいのよ。その辺は支給するし、この任務、抜き打ちだからいつ行ってもいいのよ。」

「…わかりました。断る理由もないですし、謹んで。」

「相変わらず固いわねえ。私とあなたの仲だし、別に気楽にしていいのに。」

「ミサキちゃんはもう少し会長の自覚を持ってよ。いくら同級生でも、立場くらいは弁えてるつもりなんだけど。」

「…それもそうね。で、出発はいつにする?最初の国までの車はあるから、何時でもいいわ。」

「持っていきたい荷物もそんなに無いし、旅費さえ出るなら心変わりしない今のうちに行こうかな。」

「分かったわ。それじゃ、気をつけて行ってきてちょうだい。制服はもう用意したわ。」

「成長を楽しみにしているわ、陽歌。」

「ミサキちゃんも元気でね。」


ミサキに別れを告げて議会室を出ると、第1議会の会員の1人、レイに会った。

レイは薄紫の美しい髪を持った美人なのだが…

「あら、藤咲…陽歌?とか言ったかしら。左遷されるそうじゃなーい。おめでとう!これで辺境の地への『栄転』ね!」

「レイさん…」

ミサキと違い、陽歌に…というか、庶民にいい印象を持っていなかった。

(こっちが議会員の普通だって、分かってはいるんだけどなあ…)

「二度と戻ってくるんじゃねぇぞ?」

「はい。レイさんも、お元気で。」

美しい髪を靡かせて遠ざかっていくレイを見届けて、肩を落としながら陽歌は車に向かう。

(結局、あの人達は変わらなかったなあ…)


車に乗り込むと、黒髪の好青年が待っていた。

「お待ちしておりました。それでは出発しても宜しいですか?」

「運転、よろしくお願いします」

「はい。目的地…『ルータオ』には車を作る程の文明は無く、目立ってしまいますので国境の手前までになりますが、そこまでどうかよろしくお願いします。」


こうして陽歌の旅が始まった。



***


━━━宗教都市ルータオ某所にて。

愛流えるさまぁー、茶髪の少女がキャブルース第1議会から向かっているとの通告だそうですぅー。」

「そう、お迎えに行って、次いでに様子も見といてよ。私は『お告げ』があるからさー。」

「御意にぃー。」


タッタッタッタッ…

可愛らしい足音を立てて偵察に向かう少年の後ろ姿を見送って、愛流と呼ばれた女は腰を上げた。

「さて、私は『お告げ』を成功させなきゃだわ。先輩のためにも。」


「そうですよね?私の憧れの…エミ先輩。」

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