3日目②


「お、お主ら……儂を売るとは、良い度胸じゃ」


 異世界で金貸し業があるかはわからなかったが、無事見つけることができた。怖いお兄さんがいっぱいいるようなところだったが、この際闇金でもいいので、一万ゴルドを貸し付けてもらうことができた。

 この世界に何の縁もない俺たちが大金を借りるには、それなりの担保が必要であり、俺と燈はエキドナを差し出すことにした。


「いざとなれば転移で逃げることもできるくせに、なんでそんなに不満げなんだよ」

「阿呆! 儂がサインさせられた契約書には魔力が込められていて、儂が逃げようとすればすぐにその情報を契約者に伝えるのじゃ。しかも、ご丁寧に遠隔でのお仕置き機能付き。儂の安寧が脅かされるではないか!」

「お仕置きって……どんな?」

「爆発する。経験者曰く、死ぬほど痛いらしい」

「それは……ちょっと見てみたいな」

「やめろ、好奇心を発揮するでない」


 エキドナが戦々恐々としている。別に本気で言っているわけではないのだが、怖気づくエキドナはちょっとおもしろい。


「金を得たのはいいが、これからどうするんだ? 結局返さなくちゃいけないし、結構な暴利だったぞ」

「ふっふっふ、燈様の完璧なプランを知りたいと申すか」

「子芝居はいいから」

「あいよ。昨日私が割り込んだ戦いって、実は闘技場のチャンピオンへの挑戦権を賭けてたみたいなんだよね」

「挑戦権?」

「そう。お姉ちゃんを懲らしめる方が優先だったから昨日は断ったんだけど、挑戦権自体はいつでも使えるらしいんだ」

「それはいいが、金の話とどうつながるんだ? チャンピオンに勝つとたんまりもらえるとか」

「それもあるけど、闘技場には賭け金の制度があるでしょ?」

「……そういうことか」


 燈の意図をようやく俺は理解する。エキドナだけ「なになに?」と困惑していたので、説明してやることにした。


「単純な話だ。そのチャンピオンへの挑戦の際に、この一万ゴルドを燈の勝ちに賭けるんだ。倍率次第では一気に稼ぐことができるぞ」

「なんだ、結局賭け事頼りではないか。燈が負けたら全部台無しじゃろうて」

「浅はかだな」


 俺が鼻で笑うと、エキドナがむっとした顔になる。


「なあ燈。もしもお前が負ければ、掛け金はパア。俺たちは今度こそ手詰まりになるわけだけど、どう思う?」

「そういうのを愚問というわけですよ。君たちは余計な心配しないで、ドンと構えていなさいってえの。負けられない勝負、結構じゃん。そういう方が私は燃えて好きだよ」


 不敵に笑う我が幼馴染は、世界一頼もしい。


「そういうわけだ。お前がカジノで負けるのは単なる自業自得、軽慮浅謀、画餅充饑、無知蒙昧も甚だしい」

「ぐぬぅ……言葉の意味はよく分からぬが、馬鹿にされてるのは伝わってくるぞ」


 さっそく俺たちは闘技場への道を引き返していく。昨日のうちに距離を稼ごうとしたのが裏目に出て、それなりの時間がかかってしまう。

 闘技場について、関係者が控えている部屋へと向かう。試合が開始する時間帯にはまだ早かったようで、昨日の司会者を都合よく見つけることができた。

 さっそくチャンピオンへの挑戦ができないか聞いてみると、なんとさっそく試合を組んでくれるらしい。

 曰く、「チャンピオンが昨日の試合を見ていて、君たちに興味を持った」とのことで、いつでも挑戦を受けると言ってくれたらしい。

 宿代や食費に使うことなく、できるだけ多くの金を賭けに投入したい俺たちにとっては、願ってもないことだった。


 とはいえ、すぐにチャンピオンが来てくれるわけもない。そもそも闘技場が空くのは、昼過ぎ以降。俺たちはいったん闘技場を出て、昼食を摂ることにした。

 そうして時間を潰した後、俺たちは再び闘技場へと戻ってきた。開場時間が近づいていることもあり、周囲が俄かに活気づいていくのがわかる。

 司会者が指定してきたのは、本日クライマックスとしての最終試合。どうせ試合までは特にやることもないので、俺たちはそれまで手持無沙汰になってしまう。

 気前の良いことに、運営は俺たちを燈の関係者として入場料をタダにしてくれたので、せっかくだし前の試合を見学することにする。


「こうして見ると、やっぱり迫力があるな」


 これまで燈の規格外の戦いを目にしてきたとはいえ、異世界の戦いは男心をくすぐるものがある。魔法で強化された肉体のぶつかり合いもすごいし、炎や水、電気といった攻撃魔法の応酬も見応えがある。

 俺も頑張れば使えるようになるのだろうか。ぜひとも使ってみたいが、ちょっとやそこらで習得できるものでもないだろう。

 そもそも教えてもらうにも、燈は自己流かつ天才なので、とてもじゃないが参考にならない。

 かといって、エキドナに教えてもらうのもちょっと違う。魔法の腕は明らかに群を抜いているが、教えを乞うとなれば、ここぞとばかりに調子に乗るだろう。それはムカつくので、なしだ。今は手を組む関係だが、一応本来的には敵だしな。

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