2日目③
「儂は今代の魔王として、魔物、そして上位存在たる魔族の軍勢を率いて、人間どもと熾烈な争いを繰り広げていた。そこに現れたのが、あのアキヨシ・リンドウじゃ」
なんか語りだした。止める意味もないので、とりあえず聞いてあげることにした。
「我が魔王軍は盤石にして歴代最強。エクセリア王国が異世界の英傑を呼ぼうと、それだけでどうにかなるものでもないと確信していた……それが一週間前のことじゃ」
エキドナが肩を落とす。その後のことは、だいたい察しが付く。
「我が魔王軍の精鋭を差し向けたのじゃが、アキヨシ・リンドウは妨害などどこ吹く風、破竹の勢いで我が居城まで攻めてきた」
ここらへんは国王からも聞いているので、特段新しい情報はない。
「あろうことか、我が側近をはじめとした魔王軍は軒並みアキヨシ・リンドウに屈服して、儂を裏切りおった。頭目である儂だけみじめに捨てられて、こうして生き恥を晒しているわけじゃ……笑いたくば笑え!」
「それじゃ遠慮なく。わははははは!」
「何が可笑しい!?」
「ええ……? 情緒どうなってんだよ」
笑えって言うから笑ったのに。だいぶ精神的にやられているのかもしれない。
「儂は誓った。泥をすすってでも、あの邪知暴虐たるアキヨシ・リンドウを討ち果たすとな」
「魔王のくせに、よく人のこと邪知暴虐とか言えるな。というか、お前本当に魔王なのか? 威厳とかどこに置いてきたんだよ」
魔王なんて、RPGで言えばラスボス級の存在なのに、目の前の存在からはそういった凄みを一切感じ取れない。
「案外嘘じゃなさそうだよ。威厳はともかく、結構な力を秘めてるのはわかるから」
強者の匂いを燈は感じ取っていた。燈がそう言うのなら、信用できる。
エキドナはまたドヤ顔をしていた。いちいち腹立つなこいつ。
「とは言え、魔王軍だけでも儂の手には余るところ、あのアキヨシ・リンドウがいては儂には万が一にも勝ち目はない……そんなときに、エクセリアが再び英傑召喚の儀を執り行うことを風のうわさで耳にした」
「あー、それで呼び出されたのが俺たちで、要するにあんたは俺たちに竜胆を倒す手伝いをしてほしいというわけだ」
「この通りじゃ!」
なんと、異世界の魔王が、日本の礼式である土下座を完璧な形で繰り出した。土下座のお手本という題で写真に残したいほど見事な土下座だ。
「今まで王として君臨していたのに、あのアキヨシ・リンドウが来てから数日で天下を乗っ取られたのじゃぞ!? この悔しさは筆舌に尽くしがたい。部下たちもみんなして裏切るとか、長い付き合いの情とかあるじゃろう!? もうちょっと手心があってもいいというか、あまりにも理不尽すぎる!」
エキドナは号泣していた。魔王のくせに、情とか手心とか、らしくないことばかり言ってるがそれだけ悔しいのだろう。
「ねえ悠馬。魔王って倒した方がいいんだろうけど、私さすがに今のこの子は倒せないや」
泣きわめくエキドナに、燈は同情していた。「よしよし」と地に着けられているエキドナの頭を撫でている。
「世界史でもこんなおもしろい裏切り方された王様は聞いたことないな。多分、この世界の歴史に残るだろうし、悪いことばかりでもないだろ」
「後世までの恥ということではないか!? そんな形で名を残すのは嫌じゃ!」
いかん。フォローのつもりが、さらにエキドナを泣かせることになってしまった。
「まあどうせ竜胆を止めなくちゃいけないのは変わらないし、別に俺たちとしては問題ないな」
「本当か!?」
がばっとエキドナが頭を上げた。めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしてる。
「う~ん、さすがにこのままじゃかわいそうだしね。あなたを倒すのは、お姉ちゃんを倒した後にしてあげる」
燈がポンポンとエキドナの肩を叩く。エキドナの顔は青ざめていた。そりゃそうだ。
「な、何はともあれ、これで我等は盟友じゃ。裏切りとか絶対になしじゃぞ!?」
相当トラウマになってるのか、エキドナは念押ししてくる。
俺たちとしても悪いことではない。エキドナは俺たちよりもずっとこの世界に詳しいだろうし、何より魔王と言うだけあって、燈がその力を認めるほどの実力者だ。腹の中ではいろいろ悪事を企んでいるのかもしれないが、この威厳のない姿を見てると、別に問題なさそうな気がしてくる。
むしろ、近くに置いておくことで監視できるという考え方もある。燈がいる前で悪さをしても、すぐにお仕置きされるだけだ。エキドナにとってのメリットはない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます