第三章 拾肆
「ヒュウウウ······邪眼を持つ選ばれし巫女は、ヒュウウウ······人間に呪いをかけ矛盾した時間と次元で繰り返し、ヒュウウウ······恐怖を与え続けています。ヒュウウウ······その魂から出る恐怖と絶望の負のエネルギーを、ヒュウウウ······巫女は吸い取り、力を高めています。ヒュウウウ······巫女の目的が達成されたら、日本は脅威にさらされます。ヒュウウウ」
梢が話し終えると雷呀が口を開いた。
「カオスの欠片と言うのが分からないが。邪眼の巫女。斬刃の次は俺が神社に行くぜ。こんな面白い事始めてだ」
雷呀がそう言うと珠流が、
「いや、これは譲れない。自分の霊力を最大限に発揮して闘える悪霊なんて滅多にいない。次は俺が行く」
羽沓が縦長の赤いモヒカンを両手で整えながら、
「俺もよぉぉぉ、同じ意見だぜぇぇぇ、おもしれぇよ、おもしれぇ。それじゃあよ。この七人で闘って最後まで立っていた奴が、次の邪眼の巫女の討伐の権利を手にするってえのは、どうだぁぁぁ」
一人の老師が口を開く。
「私闘は禁止していると言っただろう。それに八部衆を全員集合させたのは七人で協力して、巫女の悪霊を消滅させてもらうためだ」
「協力? 嫌なこった。珠流と羽沓と手を組むなんざ、吐き気がするぜ」
雷呀が、首を横に振りながら老師の言葉を否定した。
美琴が口を開き話し出す。
「私と蘭真、从磨、湊蘿は協力して邪眼の巫女がいる神社へと向かいます」
美琴の言葉を聞いた一人の老師が、
「斬刃は、最後に八部衆七名で協力する様に言っていたそうだ。それ程の相手だ。七名で協力して神社に行ってくれぬか」
老師の言葉に、雷呀も珠流も羽沓も首を縦には頷かない。
室内の端にレイナと座っている桃華は、老師達と八部衆のやり取りを見つめていた。
桃華は、なぜかこのままではいけないと心で感じ始めていた。
あの恐怖を感じさせる程の雰囲気を持っていた斬刃が、八部衆七人で協力しろと言い残した。
老師達が、後ろに車椅子に座っている梢に、
「梢様、八部衆が全員で協力するように言って頂けませんか?」
だが梢は、老師達に何も言葉を返さなかった。梢の高い呼吸音だけが聞こえるだけだった。
「まぁ、そう言う事だ。協力は出来ない」
珠流は、そう言うとあぐらをかいて座っていた座布団から立ち上がり、屋敷の出入り口の襖へと歩き始めた。
続いて雷呀も立ち上がり、珠流と同じく襖へと向かおうとした。
その時だった。
「まって······待ってください!」
端に座っていた桃華が声をあげた。
レイナが驚いて隣りの桃華の顔を見る。
珠流は襖の前で桃華に振り向き、雷呀も同じく桃華に顔を向けた。
「あの······あの······あの! あたしには何もできないんでしゅ······何も······仲間が、友達が、呪いで苦しんでいるのに、しゅくいを求めているのに······あたしには······何もできない······たしゅけてあげられない······」
桃華の目に涙が溢れ出し、大粒の涙が流れはじめた。
「容姿だけじゃなく、声も可愛いんだ」
蘭真が人差し指を唇にあて桃華を見ている。
桃華は、大粒の涙を両手で拭いながら、
「あたし······あたしは要領も悪いし不器用だし······でも、仲間達は、あたしを、まっしゅぐに見てくれる······大切にしてくれる。そんな皆が大変な目にあっている。けど······だけど、何もできない。あたしは、しゅくいたいんです。どうしても······絶対に、絶対に、たしゅけたいんでしゅ······」
桃華は下を向き、涙が溢れる顔を両手で覆った。
「八部衆の皆さん······協力して下さい······お願いしましゅ······お願いしましゅ······皆をたしゅけてください······お願いしましゅ······」
桃華の身体からオーラが発せられた。
梢は桃華を見て、
「ヒュウウウ······ほほう。これは······ヒュウウウ」
八部衆全員が、うつむいて泣いている桃華のオーラに驚いていた。
黄金のオーラを放つ人間は稀だが、桃華の身体から発せられるオーラは黄金のオーラを超えている。
誰も視た事のないオーラ。
七色のオーラ。
まさしく、虹のオーラだった。
雷呀が唖然として桃華を見ている。
「七色のオーラ。マジかよ。こんなオーラ、視た事も聞いた事もない」
美琴達は、その美しく輝く桃華の七色のオーラに視線が釘付けになっている。
「正直······驚きです。何て美しく、人の心を癒す。虹のオーラ······」
美琴が驚きと感動を感じていた。
蘭真も从磨もそして湊蘿も同じ感動だった。
桃華の心に悪意と言うものが、まるでない。人間なら当たり前で誰もが持つ欲がないに等しい。
今の桃華の心は、純粋に仲間達を救いたい。
その想い。強い信念。
羽沓が両手で拍手した。
「ひははは! すげぇ! すげぇよ、この娘。初めてだぜぇぇぇ、こんなオーラと純粋な心。よぉし分かった。俺は協力するぜぇぇぇ。この迦楼羅の羽沓がよぉぉぉ、初めて協力するぜぇぇぇ! ヒャハハハ」
雷呀は立ったまま、
「まぁ、女好きの俺としては、泣いて頼んでいる女を無視するのはポリシーに反するぜ」
雷呀は、再び座布団の上にあぐらをかいて座った。
珠流は、襖に手をかけていたが、身体の動きがとまっていた。
「······くな······泣くな······泣くな! お嬢さん!」
桃華は両手で涙を擦り、珠流を見た。
「お嬢さんが······今······乗り越えられない大きく分厚い壁にブチ当たっているのなら······俺が壊してやる。俺がそんな壁をぶっ壊してやる! お嬢さんの想いと願い。確かにこの阿修羅の珠流が受け取った!」
珠流は襖から後ろにふり返り、さっきまで座っていた座布団にあぐらをかいて座った。
美琴が、雷呀、珠流、羽沓に、
「それでは、三人共協力する、と言う事で宜しいですね?」
珠流が答えた。
「そう言う事だ。······チッ。まったく虹のオーラとはな······天使かよ······」
老師達は安堵した。
「おお、そうか、七人で協力してくれるのか、素晴らしい。これなら必ず巫女の悪霊を消滅できるであろう」
レイナは、泣いていた桃華の背中を優しく手で撫でると、
「私には良く分からないけど、斬刃の言った通り桃華ちゃんを連れて来て良かったみたいね」
「あたし、泣いてるだけで、何もしていないでしゅ······」
「でも、あなたが八部衆の心を動かした。それだけは私にも分かる」
レイナは桃華の背中を優しく撫でながら、笑みを見せている。
美琴が、老師達そして箱ノ梢に決断した事を口にした。
「では、我々、八部衆七名、明日の朝一番に茨城県に向かいます。寺院からの依頼である、邪眼の巫女の消滅と奪われている人達の魂の救済。必ず達成致します」
老師達が、
「うむ。良くぞ団結した。八部衆、お前達の依頼の達成を心待ちにしておく。よろしく頼む」
箱ノ梢が静かに呟いた。
「ヒュウウウ······さて、七名のうち、何人が神社に辿り着けるか······ヒュウウウ······」
明日の朝、八部衆が真神楽寺院専用の大型バスに乗り茨城県へと向かう。
邪眼の巫女を消滅させる為に、初めての協力だった。
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