第31話 誰がピンチを救うのか
直射日光をプリズムで乱反射させたような激しい光がフィールドに生まれた。
その極光を纏い、輝きの中から歩み出てきたのは、肉体に飛蝗の特徴を表した異形の人型だ。全身は感光したように黒く染まり、外骨格化した
『護国将 太陽の皇子
太陽神の血を引く貴人の系譜に連なる男。
まさかこいつが桜の運命とは。
「召喚時効果! 最もパワーの高い相手ユニット1体を破壊する! そしてそのパワー5000につき、わたしのライフを1つ回復! ライフから召喚していた時、これらの効果は防げない!」
現在相手ユニットで最もパワーが高いのはグロリアだ。アタック時効果込みでパワー19000。青マナの効果によってアタック中完全耐性が付いているが、
「古き英傑よ、魂まで魔道に堕ちたか!?」
流樟が叫ぶ。みどりちゃんのティターニアといい、やはり運命とやらであればユニットは喋れるものみたいだ。
流樟は地面に手刀を叩き付けると、その身に宿した飛蝗の姿の如く天高く飛び上がり、体を捻って勢いを生んだ両足をグロリアの胸に叩き込んだ。
グロリアの足は地面から離れず、されど後退してフィールドに轍を残す。
「グルルルル……!」
目に光を宿さぬグロリアが喉の奥から唸り声を上げる。そして咆哮。聞いた者の恐怖を喚起させるような音が世界を揺らす。
しかし流樟は護国将。襲い来る悪を退けるため、戦うことを恐れない。
グロリアの足元から「黒」が広がる。粘ついた液体だ。『妖精の花畑』によって顕現した花々が、「黒」に触れた瞬間腐り落ちていく。
「おおこれは毒の腐海だ! しかしオレは平気だぞ!」
流樟は躊躇いなく「黒」に踏み入りグロリアに殴りかかる。
グロリアは人間の腕で流樟の拳をいなし、赤き竜の腕を振るう。その拳圧だけで暴風が生まれ、巻き上がった「黒」が流樟の視界を遮る。
「こんなもの! ッこれは!」
「黒」の目眩しを突っ切った流樟に、幻獣の腕から放たれた雷が降り注いだ。
一瞬足が止まった流樟の首を妖精の腕が掴む。同時に流し込まれる高熱と超低温。急激な加熱と冷却が流樟の身を苛む。
流樟は妖精の腕を叩き落とすとグロリアを突き飛ばし、青白く輝く剣を腰から引き抜いた。あれなるは神が太陽の力を押し固めて創造せし星の聖剣。蛍光灯ではない。
天使の腕が裁きの光を撃つ。流樟はそれを聖剣で受け止め、払い散らす。腕を大きく払ったその刹那、ガラ空きになった流樟の胸元に旋風の如きグロリアの蹴りが吸い込まれるように命中。わずかに後退し頭を差し出す格好になった流樟の顔面に向かって、グロリアが赤竜の拳を振り抜いた。
漆黒の体が扉のように回転、たたらを踏む流樟。
振り向きざま、右下から切り上げ。素早く腕を引き絞り、剣先から鍔元まで、真っ直ぐにグロリアの胴体へ突き立てた。
グロリアの肉体から火花が散る。剣身から太陽のエネルギーを流し込まれているのだ。
グロリアは人と竜の腕で流樟の手ごと柄を握り潰して剣を引き抜きにかかる傍ら、残りの腕で雷と熱衝撃、裁光を流樟に叩きつける。そしてどうにもならぬと見るや、赤竜の腕で先程と同じ箇所を殴りつけた。それを二度、三度繰り返すと、ついには頭骨も割れ、隙間から覗くだけだった真紅の眼光が露わになる。
そこまでだった。グロリアに流し込まれたエネルギーが臨界を迎え、剣を引き抜いた流樟が距離を取る。
その時だった。死せる英雄の目に光が戻る。背を向けた流樟には見えていない。グロリアは最後に、薄く微笑んだ。
爆散。
古代の英傑は膝を付くことなく、最期まで立ったままだった。
グロリアの破壊により、桜は3点回復し、ライフが6になる。
「ライフ回復! フヨウも倒したしこれで──あれ!?」
桜がすっとんきょうな声を上げた。
『爆灼陽炎斬』が生んだ爆炎と黒煙の中から、破壊したはずのフヨウが2体とも無傷で現れたからだ。
「なんっ、どっ、どうして!? 対象指定は間違えてなかったはずだよ!?」
「──フリージアよ」
みどりちゃんが苦しそうに告げる。
「『花妖精フリージア』は、味方の妖精を対象に含む除去効果を自分に引き寄せることができるの」
敵方のフヨウの足元に転がるフリージア。仲間を守んのは自分の仕事だとばかりに、自らの体でフヨウを爆発の斬撃から守ったのだ。
危険を悟った桜は手札に視線を落とし、割られた残りのライフすべてを躊躇なくマナにする。
モウセンゴケが4体、蔦3体、肉1体、ライラックとフヨウが2体ずつに、バルバラが1体。それから『炎天使カマエル』。
侵略者の脅威は終わっていない。
猛攻はまだ始まったばかりだ。
***
次にアタックしてきたのは『炎天使カマエル』だ。狙いは俺。まさか天使に襲われるとはね。
『炎天使カマエル』。
相手ユニットを戦闘破壊した時、破壊したユニットと同じ種族を持つ相手ユニットすべてを破壊するという豪快な効果を持つ、天使という種族が登場したばかりの頃の主力ユニットだ。
最近は強力な種族サポートが増えたおかげで種族統一デッキが多く、ネックとなるインフレ前のパワー値さえどうにかすれば、今でも活躍できなくはない。
侵略者たるオヴザーブに操られた残火のような姿には、そのようなことができるほどの火力は感じられないが。
「ライフで受ける!」
今はリアしかいないので効果の被害を受けることはないものの、どの道パワー負けしてしまうのでアタックを通す。妖精ではないからフヨウの効果による追加ライフバーンも発生しない。
ライフは手札に。
続いて『大輪の花妖精フヨウ』の片割れがみどりちゃんにアタック。みどりちゃんは同じくフヨウで迎撃する。
「自分の妖精がブロックした時、フィールドの『フェアリーチャージ』の効果! このカードを疲労させ、自分のマナ1つをアクティブにする!」
みどりちゃんのフィールドにある『フェアリーチャージ』は2枚。よって効果も2回分。
マナゾーンにある横向きのカードが2枚、縦向きへと立ち上がる。
***
マナの状態について。
マナコストを支払う時は、縦向きのマナを横向きに寝かせる。こうすることで「マナを使用した」と扱われるのだ。
この縦向きのマナを『アクティブ』、横向きのマナを『ロウ』と言い、それぞれ、活性化した状態と、休眠に入った状態を表す。
魔法使いが使えるのは活性化したマナだけだ。そして、マナは使用すると消耗し、休眠状態に入る。
緑という色は、休眠状態のマナを大自然の力で励起させることができる。あくまで被弾時の小技であるマナリフレッシュとは異なり、少数とはいえ能動的にマナを回復する『マナアクティベート』が可能な色なのだ。
***
オヴザーブに操られた虚ろな顔のフヨウと、生気に満ち溢れたみどりちゃんのフヨウが激突する。
同じユニットでも、みどりちゃんのフヨウには『フェアリーオーラ』のパワー加算がある。最後に生き残るのはどちらか。明白。勝ったのはみどりちゃんのフヨウだ。
間髪入れず、2体目のフヨウがみどりちゃんにアタックする。
「え!?」
「またあたし!?」
ブロックの準備をしていた桜と、一息つこうとしたみどりちゃんが驚いて目を見開く。
桜のライフがグロリアのアタックで大きく削れ、ユニットが1体しかいない俺のライフがみどりちゃんと並んだことで、相手の脅威度の認識、ゲーム的に言えば相手のアタックの優先順位が入れ変わったのだ。
だがこれはチャンスでもある。
「
マジックによる
ライフバーンを行うユニットはこれで2体ともいなくなった。ライフダメージは安全圏に収まる。
頭に薔薇を抱いた妖精、バルバラが俺に向かってくる。薔薇の花言葉は情熱。バルバラの冠名でもある。
『妖精』が属する緑のユニットが得意とする戦闘効果は、相手の疲労とそれに伴ったバウンスだ。
しかしバルバラは冠した情熱の名の通り、緑という色にあって珍しい、ユニット破壊効果持ちである。
ただしその対象は「疲労状態の相手」。疲れた相手を情熱的に搾り取ってるわけだな(ゲスの極み)。
今俺のフィールドにいるのは、衣装の食い込みを直しながら
「ライフだ」
1点受けて手札を増やし、俺の残りライフが7に。
続いて突っ込んできた『花妖精ライラック』1体目の攻撃を、桜は甘んじて受けた。
2体目のライラックのアタック時、みどりちゃんはブリンクで『フェアリーダンス』のフィールド効果を使用。カードを疲労させ、相手ユニット1体を疲労させる。この時同じくフィールドの『フェアリーテンペスト』の効果で、疲労体数を+1し、結果モウセンゴケ2本を疲労させた。
しかしライフ減少時に『妖精の花畑』でドローしてしまったことで、相手の『氷雪大地』の効果が発揮。2ドローを許してしまい、相手フィールドに肉触手と『情熱の花妖精バルバラ』が増えた。
これにより相手ユニットの攻撃順が入れ替わり、俺に再びバルバラがアタック。これをライフで受ける。メタトロンだったのでマナに置く。
肉触手が桜へ。これを
新しく出てきた肉触手はみどりちゃんへ。2枚目の『フェアリーダンス』の効果でさらにモウセンゴケ2本を疲労。
しかしここでみどりちゃんの山札2枚がひとりでに手札に入る。
『妖精の花畑』の被弾時ドローは任意効果だ。しかし、おそらく肉か蔦の効果で、強制効果に変えられてしまっていたのだ。これはさすがに読めなかった。このリハクの目をもってしても!
相手のユニットが2体増える。カマエル、そしてシトラスだ。
新たなユニットの登場でまたしても攻撃順が入れ替わる。しかし先行するのは幸いにもカマエル。そして標的は俺だ。
ライフで受け、マナゾーンからメタトロンを召喚。効果でシトラスを破壊し、『エンジェルズラダー』の効果を使って『爆灼陽炎斬』で破壊された方のメタトロンを回収。『氷雪大地』が反応するのはドローだけなので安心して手札を増やせる。
残ったのは蔦が3本。
襲い来る蔦を前に、まずスケープの危険性を察した桜がマジック『
次にみどりちゃんがライフを奪われ、やはり強制的に発動した効果で2枚ドロー。
最後に俺がリアでブロック。衣装を噛みちぎろうとするワニ顎蔦を拳打でフィールドの地面に沈めた。
「「ま……守り切ったぁ……!」」
女子二人が大きく息をつく。大量の汗が肌を流れ、足元に水溜りを作っている。
今の猛攻のどこかで被弾時の衝撃によってホックが壊れたらしく、みどりちゃんは手で下着を押さえていた。胸の谷間に汗の滴が溜まっていく。
桜は汗で張り付いたキャミソールが気持ち悪いようで、指でつまんで隙間を作っていた。
俺の残りライフは5。みどりちゃんも同じく。桜は4だ。
デッキを信じてグロリアの6点アタックを受けた桜のおかげで、生き残れた。
***
「チャージフェイズ。デッキから2枚を──」
ふと予感がした。
「──いや、1枚チャージだ」
直前でチャージ枚数を変える。
ドローした瞬間、予感は確信に変わった。根拠はない。なのにどうしてか「ここだ」という感覚があった。
──今こそ使うべき時だ。
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