【短編】回復魔法の副作用

シイナ アンディ

第1話 回復魔法の副作用

 エルドリアの山奥、木々が生い茂る静かな森の中に、ポツンと小さな小屋が建っている。そこに住んでいるのはアリアという名の若い女性。

 アリアは幼い頃からこの山で育ち、狩人としての技術を身につけながら生活していた。両親はともに病で既に亡くなった。


 この世界で生まれた子供は神から祝福されスキルが使えるようになり、スキルは使えば使うほど技術が成熟する。


 私には回復魔法を与えられ、この森で怪我した動物を回復しともに生きている。

 しかし、両親が病気にかかった時には、どんなに回復魔法を行使しても完治させることは叶わず失ってしまった。

 きっと技術が足りなかったんだろう。ちゃんと回復魔法を練習してれば、あの時両親を救えたのだろうか、と考えてしまう。


 アリアはいつものように森の奥深くを歩いていた。秋の風が木々の間を吹き抜け、黄金色に輝く葉が彼女の足元に舞い散っていた。狩りを終えたばかりのアリアは、小屋に戻る途中で森の静けさを楽しんでいた。


 突然、彼女の耳に微かな鳴き声が届いた。その声は痛みと恐怖に満ちており、アリアの心を締め付けた。彼女は声のする方へと足を向け、静かに歩みを進めた。数分後、彼女は木立の間に罠にかかった一匹の子狐を見つけた。その子狐は罠の鋭い牙に脚を挟まれ、必死にもがいていた。子狐の毛皮は血で染まり、目には恐怖の色が浮かんでいた。


「大丈夫、怖くないよ。」

アリアは静かな声で言い、ゆっくりと子狐に近づいた。彼女の優しい声が子狐の耳に届くと、子狐は一瞬身を震わせたが、アリアの穏やかな目を見つめると少しずつ落ち着きを取り戻した。


 アリアは膝をつき、慎重に罠を調べた。罠の構造を理解し、どのように外せばいいのかを考えながら、子狐の目を見つめ続けた。

「すぐに外してあげるから、少しだけ我慢してね。」

彼女はそう言いながら、ゆっくりと罠の仕掛けを外し始めた。指先が罠の鋭い部分に触れるたびに、彼女は慎重に動かし、子狐に痛みを与えないように注意を払った。数分後、罠が完全に外れると、子狐はその場に倒れ込み、深い息をついた。


「もう大丈夫だよ。これから治してあげるからね。」

アリアはそう言って子狐の脚に手をかざした。彼女の手から淡い光が放たれ、子狐の傷口を包み込んだ。光は暖かく、癒しの力が込められていた。子狐の傷は瞬く間に癒え、血も止まった。

 子狐は最初、アリアの手に驚きの表情を見せたが、その後すぐに彼女の温かい手に顔を擦り寄せた。子狐の目には感謝の色が浮かんでいた。アリアは微笑み、子狐の頭を優しく撫でた。

「もう安心していいんだよ。これからは気をつけてね。」子狐は一度アリアを見上げ、感謝の意を示すように尾を振った。彼女はその姿を見つめながら、子狐が元気に森の奥へと駆けていくのを見送った。



 時折、アリアは狩りで得た獲物を村に持っていき物々交換をしている。村の人々は彼女を「山の娘」と呼び、彼女が持ってくる新鮮な獲物を心待ちにしていた。アリアも村人たちとの交流を楽しみ、時には村の子供たちに森の話を聞かせたり、狩りのコツを教えたりしていた。


 ある晴れた日の朝、アリアは狩りを終えたばかりの新鮮な獲物を担ぎ、村に向かって歩いていた。彼女の心は軽やかで、秋の風が顔をなでる感触が心地よかった。村に到着すると、市場の喧騒が彼女を迎えた。


「アリア、いつもありがとう!これいつものパンね」

 村人たちは彼女を見ると手を振り、彼女の持ってきた獲物を喜んで受け取った。

「こちらこそありがとう。助かるわ。」

 アリアも微笑み返し、次の狩りの計画を頭の中で思い描いていた。


 しかし、その日は普段と違う緊迫した雰囲気が市場に漂っていた。アリアはふと耳を澄ませ、遠くから聞こえてくる叫び声に気づいた。彼女は声のする方向へ足早に向かい、村の広場にたどり着いた。

 広場には村人たちが集まり、何かに困惑した表情を浮かべていた。アリアが近づくと、地面に横たわる旅人の姿が目に入った。旅人は深い切り傷を負っており、血が止まらずに苦しんでいた。

 周囲の村人たちはどうすればいいのか分からず、ただ立ち尽くしている。


 アリアは一瞬躊躇したが、すぐに決意を固めた。

 彼女は旅人の元に駆け寄り、彼の傷をじっと見つめた。その切り傷は深く、普通の手当てでは助かる見込みはなさそうだった。

 しかし、アリアは決して諦めておらず、彼女は深呼吸をし、心を静めた。

「大丈夫、私が助けます。」

 アリアの静かな声が広場に響いた。


 彼女は旅人の傷口に手をかざし、温かい光を放った。その光は徐々に強さを増し、旅人の傷を包み込んだ。光が傷口に触れると、奇跡のように血が止まり、傷はみるみるうちに癒えていった。村人たちはその光景を目の当たりにし、驚きと感動の声を上げた。


「アリアさん、本当にありがとう!」

 旅人が目を開き、彼女に感謝の言葉を伝えた。

「でも今お金を持っていないんですが...」

「私が助けたくて助けただけですので、お金はいりませんよ。」

 アリアは微笑みを返し、静かに立ち上がった。彼女にとって、人を助けることは自然な行動であり、特別なことではなかった。


 その夜、アリアは自分の小屋に戻り、焚き火の前に座って考え込んでいた。

 感謝の言葉や驚きの声が耳に残り、心に温かさをもたらしていた。



 翌朝、アリアは昨日の騒動の中でハーブの受け取りを忘れていたことに気づき、村に向けて出発した。


「アリア、お主回復魔法を使えるのか…?」

 村につくと、村の長老であるエドウィンから声を掛けられた。

「実は使えます…。でも両親の病気は直せなかったし全然使いこなせていません…。」


 エドウィンは深いため息をつき、

「こっちに来なさい」

 と言って、エドウィンの家に案内してもらった。


 そして、静かに語り始めた。

「アリア、君が回復魔法を使ったのは素晴らしいことだ。しかし、回復魔法には対価が必要なことは知っているか?」

 アリアは息を呑んで長老の話に耳を傾けた。

「いいえ、知りません。対価が必要なんですか…?」

「回復魔法は神様から与えられた非常に強い力であるが、その行使には対価を支払う必要がある。だから、教会で回復魔法をお願いするには多額のお布施が必要なのだ。この村に住んでいる者たちはこの村で生まれてこの村から出たことがないものが多いから、そんな話は知らないのだろう。しかし、この村の外で住んでいる人々はお布施が高いことを知っているからこそ、簡単には回復魔法を使わない。」

「でも私、神様に何も支払ってないですよ…?」

「そうだろう。しかし、神様は受け取っている。」

「神様は何を対価に回復してくれたのでしょうか…?」

「落ち着いて聞きなさい。彼らは回復された者たちの寿命を対価に受け取っている。」

 エドウィンの言葉にアリアは衝撃を受けた。

 自分が知らないまま人々を助け続けてきたことが、実際には彼らの命を削っていたという事実に胸が痛んだ。

「でも、私は誰かを助けたいと思って使ってきました。それが人々に害を及ぼすなんて…。」

 アリアの声は震えていた。

「アリア、その気持ちは素晴らしいことだ。しかし、これからは慎重に魔法を使う必要がある。街に出れば教会があり、そこで魔法についてもっと学ぶことができる。君が持つ力を正しく使うためにも、知識を深めることが大切だ。」


 その日、彼女の心には、小さな疑念が芽生えていた。回復魔法の力を使うことが、どれほどの影響を及ぼすのかを完全には理解していなかったのだ。彼女はただ、目の前の苦しむ人を助けたいという純粋な気持ちで動いていた。しかし、その力がもたらす影響については、なにも知らなかった。


 アリアはこれからも人々を助けられるように、自分の力についてもっと学ぶことを心に誓い、この村を出て街に行く決意をした。しかし、この地域の冬はとても寒く危険なため、冬を越してから街に向かうことにした。

 この時期はほとんど外に出ることもかなわず、ほとんどの時間を山小屋の中で過ごし、出立に向けて山小屋の荷物を整理した。



 アリアは準備が整った後、村へ向かった。彼女が村に到着すると、村人たちはいつものように彼女を温かく迎えた。アリアが旅立つことを伝えると、村人たちは驚きと共に心配そうな顔を見せた。

「アリア、道中には気をつけなさい。立派な回復術者になれるように祈るよ。」

 エルヴィンがそう言いながら、アリアの手を握った。アリアは微笑んで頷いた。

「ありがとうございます、皆さん。無事に帰ってきます。」

 村人たちからの温かい言葉を胸に、アリアは村の出口へと向かった。彼女の背後には、見送りに来た村人たちが手を振っていた。

 村を出発したアリアは、山道を下り、広がる平野へと足を進めた。大きな街までは数日かかる道のりだったが、アリアはしっかりとした足取りで歩み続けた。彼女は森の中で生きてきた経験から、自然の中での旅に慣れていた。

 昼間は太陽が照りつけ、温かな光がアリアの背中を押してくれた。道端に咲く花や木々のざわめきが、彼女の心を癒してくれた。途中で出会う動物たちに優しく話しかけながら、アリアは進んでいった。

 夜になると、アリアは焚き火を起こし、持参した食料で簡単な食事を取った。星空を見上げながら、彼女は大きな街での新たな出会いにワクワクするとともに、回復魔法の本質を知る不安を胸に抱いた。


 ◇


 アリアが街を出て行った数日後、彼女が住んでいた山小屋は静まり返っていた。かつてアリアが狩りをし、動物たちと共に過ごした場所には、彼女の気配が完全に消えていた。

 ある朝、通りがかりの猟師が偶然その山小屋の近くを通りかかった。彼はふと、何か異様な臭いを感じ取り、足を止めた。その臭いは山小屋の方から漂ってきていた。

「なんだ、この臭いは…」

 猟師は不安な気持ちを抱きながらも、臭いの元へと向かっていった。山小屋の周りに広がる森の中を慎重に進むうちに、彼の目の前に信じがたい光景が広がった。そこには数十匹の動物の死体が無惨にも横たわっていたのだ。

「これは…一体どういうことだ?」

 猟師は目を見張り、その場に立ち尽くした。子鹿や子ウサギ、子狐など、様々な動物たちがあちこちに散らばっていた。彼らの体には外傷は見当たらず、まるで何か見えない力によって一斉に命を奪われたかのようだった。

 近づいて見ると、動物たちの目は虚ろで、まるで魂が抜けたかのように見えた。猟師はその場で膝をつき、深い悲しみと恐怖を感じた。彼はこの異常な現象が何によるものかを全く理解できなかった。


 ◇


 称号:大量虐殺者を手に入れました。



あとがき:

ここまで読んで頂きありがとうございます。

処女作ですので稚拙な文章でたいへん恥ずかしい限りです。

ずっと書いてみたいなと思っていたので手を出してみたんですが、この先の内容は現時点では考えていませんし、とても気分屋なので、気が乗ったら続きを書くかもしれません。

もしよろしければフィードバック等々頂戴できると大変幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】回復魔法の副作用 シイナ アンディ @syinya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ