第33話 ゼントVSセバスチャンの弟子、シュライナー①

 1週間が経った。今日行われる、ゲルドン杯格闘トーナメント第2回戦第1試合は、俺とシュライナーだ。

 シュライナーはゲルドンの執事、セバスチャンの――弟子らしい。所属はもちろん、「G&Sトライアード」だ。世界最大の武闘家養成所――。


 対戦場所は、ライザーン中央地区の小スタジアム。中規模の試合会場だ。

 俺は控え室で、不安になっていた。


(ううっ……緊張するなぁ……)


 俺はエルサに武闘ぶとうグローブをつけてもらって、リングに向かった。


「大丈夫。ゼントの努力は、神様が見てくださっているからね」


 リングへの花道を歩きながら、エルサはニコッと俺に笑いかける。

 エルフ族は信心深いようだ。


 ◇ ◇ ◇


 俺はリングに上がった。小スタジアムには、結構観客が入っている。

 目の前には、すでにシュライナーが立っていた。

 なかなか頭が良さそうな顔をしている。ひょろりとした体格で、あまり筋肉がない。


「セバスチャン先生が見ておられる。僕は負けるわけにはいかん」


 シュライナーが俺に言った。

 前列の客席を見ると、セバスチャンが腕組みして座っていた。俺をじっと見ている……。

 くそ、何だか観察されているみたいだ。


「だが、正々堂々、フェアに闘おうじゃないか」


 シュライナーが言った。

 ん? なかなか礼儀正しい選手だな。


 カーン!


 試合開始のゴングが鳴らされた。


「握手をしよう」とシュライナーが笑って、片手を出してきた。


 俺は迷ったが、シュライナーの手を握った――と思ったらいきなり!


 ゴスウッ


 シュライナーは自分の肘を上から振り下ろし、俺の右肩に肘を叩きつけた!


「くっ!」


 ……大丈夫だ、肩口に入っただけで、ダメージはない。だが、まともに鎖骨に入ったら、骨が砕かれていたはずだ。

 シュライナーは、「油断したな」と言ってニヤニヤ笑っている。

 

 こいつ! 確かに油断していた俺も悪いけど、汚いヤツだ!


「フフッ、僕の計算は正確無比せいかくむひだよ、奇襲攻撃も含めてね!」


 シュライナーは間合いを詰めてくる。


 シュパッ


 そんな音とともに、左ジャブ、右ストレートを放ってきた。無理はしない。細かくきざむようなパンチだ。

 俺は手でそれをはたきおとした。


「ゼント! 下よ! 下に気を付けて!」


 エルサの声がする。シュライナーは下に下がった右拳の甲を、そのまま上に上げてきた。


「クッ」


 シュッ


 危ねえっ! 俺はすんでのところで上体をひっこめ――つまりスウェーをして、攻撃をけた。


「フリッカー・ジャブよ!」


 エルサが声を上げた。こ、これがフリッカー・ジャブってパンチか? 名前は知ってるが。


「ゼント、相手はトリッキーな技を使ってくるとみたわ! 動きをちゃんと見て!」


 シュライナーは少し油断をしたのか、一瞬、動きが止まった。


 ここだ!


 ベシイッ

 

 俺は下段蹴りをシュライナーの足にくらわせる。


「ぐ、ぐぎっ!」


 シュライナーは声を出し、苦痛に顔をゆがめる。

 痛いはずだ。まともに右腿みぎももの内側に、蹴りが入ったんだ。あそこは筋肉できたえにくい場所だ。


 そうか! こいつは拳闘士! 蹴りに弱いのか?


 俺がまたも下段蹴りを放っていくと、彼はそれをけ、ニヤリと笑った。


「ほほう、僕の弱点が足と判断したわけだね。しかしそれは計算違いだ!」


 シュライナーは前進し、間合いをつめてくる。

 シュライナーの右ボディブロー!

 俺は肘で、叩き落す。

 シュライナーのアッパー!

 俺のアゴにかすったが、俺はスウェーで避ける!

 そして、シュライナーの右フック……!


 ガコッ


 俺の額に、何かかたい部分が当たったぞ?


 俺はくらくらしたが、一応ノーダメージだ。シュライナーはニヤリと不敵に笑う。


 く、くそ、こいつ! やりやがったな! ルール違反の頭突きだ! 故意――わざとのバッティングってやつだ!


 シュライナーはニヤニヤ笑って、素早く前進し、今度は右アッパーを繰り出してきた。

 俺はそのパンチはけたが――。

 

 ガツッ


 まただ、俺の側頭部そくとうぶに、シュライナーの額が当たった!


 俺は少しひるんだ。ダメージはないが……!


 シュライナーはアッパーを繰り出すと見せかけ、額を突き出したのだ。またしても、故意の頭突き! 反則攻撃だ!


「ゼント君、何を驚いているんだい?」


 シュライナーはクスクス笑っている。


「頭が当たったのかい? それはどうも、偶然だねえ?」


 くっ……こいつ! シラを切りやがって!


「審判! シュライナーは頭を当てにきました! バッティングです!」


 エルサがすぐに気付き、リング外の審判団にうったえた。

 シュライナーは、二度、俺にパンチを繰り出すと見せかけ、頭突きを繰り出してきたのだ。

 ルール上では、故意――わざとの頭突きは反則のはずだ。


 しかし!


「我々には確認できなかった」


 審判団長はそう言い、首を横に振っている。


 くそ、シュライナーのやつ、ケンカ慣れしている。審判に分からにように、上手くバッティングを繰り出すことができるらしい。


 シュライナー……! こいつ、とんでもない反則野郎だ!


 しかしシュライナーは余裕の表情で、その場をピョンピョン飛んでいる。


 客席のセバスチャンは、満足気な表情で試合を観ていた。


 シュライナー……! この反則野郎を……俺は必ず倒す!

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