第27話 サユリ、謎の美少女武闘家。そしてミランダの正体は

 ゲルドン杯格闘トーナメントの1回戦が、小体育館で続けられている。


 リング上では、俺の試合に続く、今日の第2試合が行われていた。


「どおりゃあーっ!」


 元気の良い気合一閃きあいいっせん、エルフ族のローフェンの試合だ。俺――ゼントは、ローフェンのセコンドとなり、リング下で彼の闘いぶりを見守っていた。


 シュバッ


「ぐへ」


 ローフェンの素早い横蹴りが、相手に当たった。


 相手はドワーフ族のマドール・グスターボ。


 身長は170センチ前後だが、体がまるで箱のように分厚い武闘家ぶとうかだ。


「のやろおお~!」


 グスターボは怒り狂って、猛獣もうじゅうのような声を上げる。グスターボの風貌ふうぼうも、ひげ面で猛獣もうじゅうのようだが……。


 不器用ながら、力強いハンマーパンチを、上から振り下ろしてくる。

 しかし、ローフェンはそれをかいくぐり――。


 ガスッ


 上段蹴り! グスターボを一発KOだ!


「見たかあっ! ゼントォッ!」


 ローフェンは、リング上からセコンドの俺を指差して、アピールする。ローフェンはリング下に下り立った後も、俺に言った。


「おい、俺の見事で華麗かれいなハイキックを見たかよ。な? すごかったろ?」

「わかったわかった」


 まったく、子どもかよ、こいつは……。

 俺は苦笑いした。しかし、ローフェンは強い。

 エルフ族は、魔法能力が素早い剣技が得意だとは聞いていた。しかしローフェンは格闘術で、華麗かれいで力強い蹴りを繰り出せるようだ。


「ゼントさん」


 ん? 後ろで女の子の声がしたな? 俺とローフェンは振り返った。


「私と一緒に帰りましょう」


 は?


 俺は目を丸くした。俺の後ろには、16歳くらいの女の子が立っていた。

 黒髪で前髪ぱっつん、ロングヘア……。


 うわっ……かわいい……。美少女だ!


 ん? この女の子、武闘ぶとうグローブを手にはめているぞ。何と、この子、武闘家ぶとうかか! トーナメント出場選手だ!


「ね、一緒に故郷に帰りましょう」


 女の子は、俺の手を握る。お、おわあああ~! 何だ? 夢か?


「おいおいおいおいおい!」


 ローフェンがすかさず、俺にツッコミを入れる。


「いつ、こんなかわいい女の子をナンパしたんだ! お前!」


 いや、ナンパなんてしている余裕ないぞ。お前じゃないんだから、ローフェン。


「そ、それより、君は誰?」


 俺は女の子に聞いた。


「サユリ……。サユリ・タナカと申します」

「サユリ……」


 俺はその名前を心の中で復唱ふくしょうした。何だか不思議な名前だ。懐かしいような、聞いたことがあるような、ないような。


「では、私は試合がありますので」


 サユリはそのまま、武闘ぶとうリングの方に行ってしまった。本当に、トーナメント出場選手だったのか!


 あのサユリって子、不思議なユニフォームを着ているなあ。

 白い民族衣装のような服。そして下にはズボンのような、スカートのような、幅広はばひろの不思議な黒いズボンを穿いている。


「あれは、はかまというものよ。東の果ての国、ジパンダルの民族衣装のようなものね」


 横から、ミランダさんが俺に話しかけてきた。試合、観ててくれたのか。

 でも、ジパンダル? どこかで聞いたな。

 サユリって子が言ってた「故郷」って、そのジパンダルって国のことなのか?


「おっ、おい。見ろ、あの女性」

「あの人……ミランダ・レーンじゃないのか?」


 ん? いつの間にか俺たちの周りに人だかりができている。

 さっきのサユリも気になるけど、何だか周囲が騒がしくなってしまったぞ?


 パシャパシャパシャ

 何と、雑誌記者たちも集まってきて、ミランダさんの魔導写真まどうしゃしんを撮り始めた!


「ミランダさん! どうして急に、表舞台に出られることにしたのですか?」

「あなたの『ミランダ武闘家ぶとうか養成所』、有望選手はいるんですか?」

「ミランダさん、インタビューさせてください! 何か一言!」


 雑誌記者たちは、ミランダさんに魔導収音機まどうしゅうおんき(注・マイクのような魔道具。言葉を記録する魔力が込められている)をつきつけている。

 どういうことだ? ミランダさんって、何者なんだ?


「ゼント! お前、今さら、何驚いた顔をしてんだよっ」


 ローフェンが俺に声をかけてきた。


「お、お前、まさか……。ミランダ先生が、女子武闘家ぶとうか唯一の、世界武闘ぶとう選手権三連覇の『ミランダ・レーン』って知らなかった……なんてことはないよな?」


 ん? ミランダ・レーン?

 俺が引きこもるちょっと前――20年前。

 伝説的強さをほこった、「ミランダ・レーン」という女子武闘家ぶとうかがいることは、もちろん知っていた。

 新聞には毎日、ミランダ・レーンの特集が組まれ、まさに国民的スターだったけど……。


「そ、そのミランダ・レーンが、ミランダさん……?」

「あったり前だろが! 国民的スターだぞ、ミランダ先生は!」

「マジか!」


 いや、全然気づかなかった。ミランダなんて、ありふれた名前だもんな。


「ゼント……トンマなヤツだな、おめぇは。一緒の村にいて、2ヶ月も気付かないなんて」


 ローフェンが額に手をやって呆れている。そのミランダさんは、雑誌記者たちに向かって、「今、いそがしいのよ」と笑って対応している。


 世界武闘ぶとう選手権三連覇――。ミランダさんに、「この人には絶対逆らえそうにない」と感じたのは、不思議じゃなかったってことか。


 ◇ ◇ ◇


 さて――この後、俺たちは驚愕きょうがくの試合を観ることになる!


 それはさっきの美少女武闘家ぶとうか、サユリの試合だった――。

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