第15話 村人、ゼントに土下座!

 俺は不良少年のデリック、レジラーと、路上で闘った。


「ゼント! 覚えてやがれ!」


 ガシャッ!


 デリックはまた、路上の立て看板を蹴っ飛ばした。そして、レジラーの肩をかついで、村の外に行ってしまった。


 そして今――俺を、デリックにからまれていたブルビーノ親父は、不思議そうに見ている。


「ゼント……どこかで聞き覚えがあるような……」


 野次馬――ここマール村の村人たちは声を上げだした。


「……ゼント! そうか!」

「あ、あのゼントか? 20数年前、村の大勇者ゲルドンからパーティーを追い出されて、村に帰ってきた、あのゼント?」

「ほ、本当かよ?」


 野次馬が騒いでいる横で、ブルビーノ親父は黙って呆然としていた。


 すると――。


 ブルビーノ親父は、俺に向かってズンズンと突進してきたのだ!


(げ、げえええっ! 20年前みたいに、銀トレーを投げつけられる?)


 俺は逃げる用意をした。そして、ブルビーノ親父は――。


 グワシッ


 両手で俺の肩を掴んだのだ! な、投げられる?


「お、お前……ゼントだったのか? み、見違えたぜ。大人になっちまったな……」


 ブルビーノ親父が、俺を驚いたように見ているので、俺は答えた。


「あ、ああ。20年も経っているから、36歳になってるよ」

 

 俺はしぶしぶ答えた。俺は、いつでも逃げられるように身構えた。


「あ、ありがとう! ゼント!」


 ブルビーノ親父は、道端に両ひざをついた。そして――何と、俺に土下座をした。

 お、おいっ……。


「お、思い出したんだ。20年前、お前に銀トレーを投げつけて、パン屋から追い出したことを。お前をゲルドンの裏切者だとうたがって、村人全員でお前をけ者にしたことを! ――済まなかった、済まなかったあああああ!」


 ブルビーノ親父は土下座してまた叫んだ!


 ひええ~。皆、見てるよ……。と、とにかく場をおさめよう。


「いや、とにかく、ブルビーノ親父。土下座はやめてくれ」

「こうしなくちゃ気が済まねえんだよ!」

「わ、わかったわかった。ゆるすって」


 野次馬たちは感嘆の声を上げた。


「ゼント……成長したな。心の広いヤツだ」

「あんな男が、この村にいたとはなあ」

「見上げた男だぜ」


 皆で俺をほめてくれている時、その野次馬の後ろから、誰かがあわててやってきた。


「お、おい! 本を売ったあんたと嬢ちゃん、今から俺の店に来てくれ!」


 質屋の店主だ。俺の周囲に野次馬がたくさんいるので、驚いている。


「お、お前ら、何集まってんだ? い、いや、そんなことより、すごいことが起こったんだ。すぐに俺の質屋に来てくれ!」


 俺とアシュリーは顔を見合わせた。

 

 俺とアシュリーは、質屋の店主に連れられて、彼の質屋に戻った。すると……。


 質屋には見覚えのないじいさんたちが、三、四人集まってきていた。着ている服が高級なものだから、金持ちなんだろう。

 どうやら、この村の人たちじゃないらしい。何者だ?


「き、君かね? これらの本の持ち主は!」


 じいさん集団のリーダーと思われる長髪のじいさんが、開口一番、レジの上の、俺が持ってきた本を指差した。


「そ、そうですけど、それが何か……」


 ガシイッ


 長髪のじいさんが、俺の肩をガッシとつかんだ。


(うわっ! やばい! このじいさん、力が強いぞ!)


「――す、すごい本ばかりじゃないか!」


 へ?


 長髪のじいさんは言った。今日は、よくおっさんに肩をつかまれる日だな……。


「君、こんな本を、どこで手に入れたんだ? 私たちは村から村をめぐって旅をしている古書マニアだが、こんなすごい貴重な本は、噂でしか聞いたことがなかったぞ!」


 俺は呆然としていたが、アシュリーは、「そうでしょ」という風に、胸を張っている。

 長髪のじいさんは俺に言った。


「ど、どうだろう、これらの本を75万ルピーで、私が買い取りたいのだが」

「え? な、ななじゅうごまん……?」


 あまりの高額料金に、俺は一瞬、頭がくらっとなった。


「えっ? お、お気にめさなかったか? じゃあ、100万ルピーで!」


 俺たちは夢みたいな気持ちで、それを承諾しょうだくした。何と現金で100万ルピーを手に入れてしまった。老人から手渡された封筒には、お札の分厚い束が入っている。


 俺たちは夢見心地で、質屋を出た。


「す、すごい幸運です! ゼントさんは幸運の持ち主です!」


 アシュリーは開口一番、言った。


「え? そ、そうか?」

「はい! 不良もやっつけちゃうし、本も高額で売れちゃうなんて! ゼントさんには、神様がついてらっしゃるのかも!」


 うーん……これはマリアが言っていたスキル『神の加護』のおかげなのか。


 さて、さっそくアシュリーの故郷、ルーゼリック村に行こう! 

 

 俺とアシュリーは村の外で馬車を呼び、乗せてもらうことにした。ルーゼリック村までの金額は、八万ルピー。山を越えるまあまあの旅行だ。しかし、お金は全然余裕で払える。


 御者は、「や、山を越えるんですかい? こりゃ一仕事だ」と驚いていた。


 そして俺はそのルーゼリック村で、とある人物と、奇跡の再会を果たすことになる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る