第14話 ゼントVS不良少年レジラー、ストリートファイト!

 俺は、不良少年のデリックを、掌底しょうてい(手の平の下部を使った打撃技)で倒した。しかし、今度はデリックの仲間のレジラーが、俺に組みついてきた。


「うおらああっ!」


 レジラーは組み技の力が強い! そうか、組み技系の武闘家ぶとうかか。俺を強引に倒してきた!


 俺は地面に倒され、レジラーは俺に馬乗りになった。


「どうだあっ」


 レジラーは声を上げる。しかし、俺はまったく動じなかった。レジラーの馬乗りはバランスが悪い。


 俺は上半身に力を込める。せーの……勢いをつけて……!


 ゴロリ――回転!


「あっ!」

「すげえ」


 野次馬たちが騒いだ。


 俺とレジラーは体勢が逆転した――! 今度は俺が馬乗りになったのだ。


 うおおおっ……。大騒ぎする野次馬たち。


「どうなってんだ?」

「回転したぞ」

「レジラーの、馬乗り状態のバランスが悪かったんだ」


 今、俺がレジラーの胴に、馬乗り状態になっている。逆転だ!


「そ、そんなバカな!」


 レジラーは目を丸くし、あわてて両腕を使い、暴れた。すぐに、俺の馬乗りから逃げ出した。まるで小動物のような動きだ。素早い。でも、顔が真っ青だ。


「お、おい! お前――何モンだ?」


 レジラーは立ち上がって、身構えながら俺に聞いた。


「俺は――ゼントだ!」

「ゼント――? くそ、何なんだよ。わけわからねえ。俺は組み技系トーナメントの学生大会五位だぞ」


 レジラーはすきを見つけたのか、また組みついてくる。しかし、俺はその組みつきの弱点を、なぜか――知っていた。


 ここだ!


 レジラーが組みついてきた瞬間、ヤツの頭の横――側頭部を両手で押す!

 するとレジラーはバランスを崩し、地面に片ひざをついた。


「ぐ、おおおっ?」


 レジラーは立ち上がり、もう一度、組みついてくる。まるで猛牛だ! しかし俺は、再びヤツの頭の横――側頭部を両手で押して、ヤツを突き放した。


「くっ」


 レジラーは両ひざに手をやり、息をついて、驚いたようにオレを見た。


「お、お前……」


 レジラーは言った。


「組みつきタックルの『切り方』も知ってるのか? お、お前、本当に引きこもりか?」


 レジラーは驚きの顔だ。


「だが、今度は本気出すぜ!」


 レジラーは思い切り突進してきた。また組みつきか? いや違う、今度は体勢が低い! 俺の両ひざをねらった、両足タックルだ!


 だが、俺はそれも読んでいた。


 ガツン


 俺は右ひざを出していた。その右ひざは――レジラーの顔に直撃した。右ひざ蹴りだ!


「ぐ、ご」


 レジラーはよろける。だが、彼も根性があるようだ。フラフラの状態で、立ち上がる。


「く、おのおおおっ」


 レジラーは俺に殴りかかってきた。


 ここだ!


 俺は一歩踏み出し、レジラーが接近してくる瞬間――。


 ガスウウッ


 彼のアゴに、右ストレートパンチ――カウンターパンチを叩き込んでいた。

 しかし、レジラーは倒れない! タフだ!

 

 だが――。勝機は見えた!


 ガゴッ……


 俺の大振りの左掌底ひだりしょうてい! 手の平の下部を使った打撃技だ!


 俺は彼の左頬ひだりほおに、左フック掌底しょうていを叩き込んだ。


「あ、が……な、なん……お前……」


 彼は倒れる。


「うおおおっ!」

「すげえ……!」

「完璧……!」


 野次馬から歓声が上がる。


 俺は自分で驚いていた。どうして俺は、こんな動きができるんだ? レジラーは素人ではなかった。組み技系の武闘家ぶとうかだった!


 しかし、俺はそれを倒してのけたのだ……。


「ひいい!」


 声を上げたのは、レジラーとの闘いを呆然と見ていた、デリックだった。


「は、はやく帰ろうぜ!」


 デリックはレジラーの肩をかし、よろよろと歩いていった。


「お、おい。病院行けよ」


 俺はそう言ったが、「うるせえ!」とデリックは声を上げた。レジラーもフラフラしながら、デリックの肩を借りながら、向こうの村の入口の方に歩いていった。


「あ、ありがとうございます!」


 声を上げたのは、デリックにからまれたブルビーノ親父だった。


「あ、あなたのお名前は?」

「お、俺? 俺は、あー……ゼントだけど。ゼント・ラージェント」

「は? ゼント……どこかで聞いたような……?」


 ブルビーノ親父も、周囲の野次馬も、不思議そうな顔をして俺を見ていた。やがて――「もしかして……あのゼントか?」そう声が上がり始めた。


 そう、村人たちは、二十年の時を越えて、俺のことを思い出し始めていた。

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