「4−6」鍛冶師、自らを語る
まるで自分の家のように、迷いもなく分かれ道の片方を選択するペパスイトス。私はまた、この沈黙を破るために質問する。
「ペパスイトスは、前にもこの城に来たことがあるのですか?」
「まぁな、だってここ俺の家だし」
は? 思わず声の出た私は、次の部屋へと足を進めるペパスイトスに必死に食らいつく。そして私の脳内を疑問が埋め尽くす、この人は王族なのか、なぜ『霧隠れの森』のような辺境に一人住んでいたのか、そもそもなぜ、鍛冶師になどなったのか。
それらの疑問は、質問する前に答えられた。
「俺は王族の暮らしやら風習やらが、性に合わなかったのさ」
俗に言う家出みたいなもんだな。ペパスイトスは笑った、初対面のときのような、痛快なものではなかったけれど。
「いい隠れ家が無いかと思ったら、丁度いい噂の立ってる森があったのさ。霧蜘蛛共がうじゃうじゃいる、だーれも近寄ろうとしない森がな」
要するに、『霧隠れの森』の伝説も、私とガド殿を襲ったあの蜘蛛も、全部この男がでっちあげた……いいや、作り出した幻想だったのか?
「どうしてそこまでして、この国から出たかったのですか?」
「決まってるだろ、この世に俺っていう名を刻み込んでやるためさ」
意味がわからない。それは、語り継がれるような人物になる……ということだろうか? それなら、王族に生まれた時点で、伝説になることは確定しているはずなのに。
「言っとくけどな、ただ名前を残したいわけじゃねぇぞ?」
ペパスイトスは、腰の玄翁を抜いた。使い古され、数多の名刀を打ち造ってきたであろうそれは、彼の手の中によく馴染んでいた。
「俺は、俺の努力で、俺の名前を残したいんだ。誰かが既に成し遂げた偉業の、屍肉を貪るんじゃなくてな」
ペパスイトスはそう言って、私の方を振り返った。
「お前らに手を貸すのも俺のエゴ。俺が最高の鍛冶師として名を残すための、手段でしかないのさ」
ーー着いたぞ。彼の低くなった声に思わず肩が震えた、宝物庫についたのだ。
(……)
彼は、これまでずっと「そう」だったのだろうか? 『霧隠れの森』の伝説が生まれる前から、たったそれだけのために……夢を追い続けていたのか?
芸術家の類は、私には理解できない。だが私は自然と、諦めない彼の姿勢を素直に尊敬していた。
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