「4−7」無能勇者、はじめてのおつかい②
『この城の何処かに、俺がどうしても取り返したい大事なものがある。そいつをお前が分捕ってくれれば、あとは俺がどうにかしてやる』
そう言われて檻の中から開放され、俺は一目散に出口を目指した。手足を縛る魔法も錠も無く、簡単に脱出できると思っていた。だが。
(一体、二体、三体。手強そうだし、まだ、いる)
武装した魔物たちが、ひっきりなしに徘徊している。数も質も恐ろしい程のレベルで、軍を統率している魔物の力量に感服するほどだった。
城の構造も出口がどこかも分かっていないこの状況で、下手に動くのは危険で、何より無謀だった。アルカはこれを見越して、俺を牢屋から出したのだろうか? どの道、俺が牢屋にいないことはすぐにバレる。そうなれば、この城の魔物共が血眼で俺を探すことだろう。
時間も、自由も、選択肢もない。
そうなってしまえば、俺はやはり、奴の手の内で踊る他なかった。
俺は自分の無力につくづく失望して、本当に、強くなろうと思った。深い、とても深い溜息を吐いてから、自分が覚えている限りの隠密系の魔法をかけまくる。ないよりはマシ、という言葉がぴったりなほど貧弱な魔法ばかりだった。
(――さて、赤い魔力を辿れ、だよな?)
来た道を戻るように、できるだけ息を殺しながら進む。アルカが言うには、赤い魔力の残滓を辿れば目的地には繋がっている。そこにあいつの欲しいものがある、それを手に入れれば、あとはどうにかする……って、あれ?
(どうにかって、何?)
今更ながら、アイツからは「助ける」とは言われていない。ただ「なんとかする」という方法も目的も効果も不明の、謎まみれの報酬を支払うという、しかも口約束である。いや、俺自身に選択肢がないのは変わらないが、それでも尚、一か八かで脱出を図った方が賢明なのではないかと思えて来た。――だがその考えは、自分が丸腰であるという事実に掻き消されてしまった。
(あの野郎、ここから出たらぶん殴ってやる……!)
こうなれば、僅かな蜘蛛の糸に縋るしか道はない。俺は赤い魔力の残滓を辿りながら、敵地のど真ん中である魔王城を進んだ。――アルカが取り戻してほしいと言ってきた、ボロボロの赤マントとやらを、手に入れるために。
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