「3-19」無能勇者、憤慨する
「『憤雷の一族』……?」
聞いたことがない単語だった。この世界はドワーフや妖精といった、人間以外のたくさんの種族が共生している。俺もアーサーたちと世界を旅したが、まだ俺の知らない種族がいるのか……? そもそも何故、あのアルカという男が使う赫雷が、俺にも使うことができるのだ!?
(いいや、そんなことよりも)
考察はひとまず後回しだ。今問題なのは、アルカが俺たちに明確な敵意と殺意を持っているかどうかだ。一度は俺のことを助けてくれた、だったら話し合えばいい。
「アルカといったな! あの時は助けてくれてありがとう!」
「礼なんていらねぇよ、これから戦うんだし」
駄目だ、向こうはすっかりやる気だ! 落ち着け、動機は何だ? あの人が魔王軍だからか? ……いいや違う、そうだったらわざわざ俺のことを助けたりなんかしない。何かきっと、あるはずなんだ。ーー戦わなくてもいい、道がーー!
ーーぶしっ。
(え?)
ぴちゃり、頬に張り付く生暖かい何か。特に感情を抱かないままそれを撫で取り、視界に入れた。ーーそれは、赤かった。赤くてドロリとした、血液だったのだ。
首を横に回す。視界に入れることを拒む自分を振り払い、俺はそれを見た、そして湧き上がってくる感情を受け入れた。ーーそこには、串刺しにされたイグニスさんとペパスイトスがいた。
「……すまねぇ」
口端から血を垂れ流すペパスイトスさん、彼に庇われてもなお一撃を受けたイグニスさん。ーーそれを、串刺しにした、お前! お前!
許さない。その感情が俺に力を与え、同時に人としての理性を破壊した。双方の赫雷は正面からぶつかり合い、相殺され……そこに立っていることができたのは、俺とアルカだけだった。
「そうこなくっちゃな、俺たちは」
「ああああぁぁぁぁあるぅぅぅかぁぁぁあああああ!!!!」
激突、痛みを与え与えられるせめぎ合いの中、俺はただ悲しくこう思った。
ああ。
はじめからこうしておけばよかった。
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