「3−14」鍛冶師、火炎一閃

 

 吹き荒れる風は渦を作り上げ、林立する木々を囲む霧を打ち払った。あれは自然に発生した風では無い……明らかに人為的な物である事が、武人の端くれである俺には分かった。風に乗った微かな殺意、それは、この爆風を巻き起こした人物へと直結していた。


 その人物は、若いが気骨のある人物に見えた。柔らかであるが力強い顔立ち、青年のような見た目に老人のような風格を帯びている……長い茶髪は手拭いで乱暴にまとめ上げられており、輝く大きな額が印象的である。


(『あれ』一本で、この風を起こしたのか……!?)


 服装はやけに職人気質で質素、俺の「もしかして」という予感を決定づけるべく、その手には玄翁が握られていた。


「先に自己紹介でもしとくか。俺の名前は――」

「あぶ、な――!」


 職人気質の男の背後から、殆どゾンビのような蜘蛛が襲い掛かる。不味い、完全に背後を取られている! 助けなければ、今すぐに……ああ体が動かない! 毒で、体が!


「――うるせぇよ」


 火炎一閃。薄暗い森の中を、火花を散らしながらそれは輝く。細長く、反り返っている見た目。俺はあれを聞いたことがある、東の国で使われている『刀』という特殊な剣だ。――だが、あれは燃えていた。撃ち上げて間もないほど熱く、握る事すら敵わない程だろうに……それにあの人は、何処から刀を取り出したのだ⁉


 俺が目を見開いている間にも、蜘蛛は断ち切られた部分から焼け焦げる。たった一撃で、巨大な体躯を全て焦がすほどの火力……それを生み出した太刀は、一気に光を失い、彼の手の中から崩れ落ちて行った。


「人が他人サマに自己紹介してるんだ、礼儀ってのを弁えてから出直してきやがれ」


 ――さてと。面倒事を片付けたかのように、彼は俺たちに向き直り、にんまりと笑って見せた。


「俺はぺパスイトス。こんな森に好き好んで隠居した、鍛冶師一筋の変態爺だ」


 


 


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