「3−12」無能勇者、背を向ける

 かつて住居だったそれは瓦礫と化した。俺は祈るような気持ちでそれを掻き分け、彼女を探している。


 瓦礫に潰れて死んでいるのではないか、毒を食らって事切れているのではないか、そもそもはじめから殺されてしまったのではないか? 探しても探しても出てこないことに対する焦りが、瓦礫をどかす手に鈍りを与えた。


(落ち着け、生きてる……絶対生きてる!)


 そう信じながら俺は、とにかく瓦礫をどかし続けた。ーーすると、土埃にまみれてはいるが、美しく白い手が出てきたのだ。


「イグニスさん!」


 名を呼ぶと、体が大きく動いた。まだ生きてる! 喜びを抑え、瓦礫の中から引きずり出す。目立った外傷も出血もない、だが……顔色が酷く悪かった。


(毒か!)


 解毒薬が入っていないか、ポケットに手を突っ込む。しかし出てくるものはなにもない……あれだけガラクタを詰め込んだのに、肝心なところで役に立たない!


(クソっ、俺は解毒の魔法が使えない! 薬草は……駄目だ、この湿り気じゃ生えてない!)


 父親が薬草学に精通していたことが、今はとても悔しい気持ちを倍増させていた。不可能を決定的なものにし、俺が無力だという事実を自分自身の手で理解できてしまう。


「……っ!!」


 イグニスさんを抱きかかえ、走る。森から出れば、近くに村がある。そこに行けばきっと応急処置ぐらいはできるはず。


(諦めるな、お前が諦めたら……世界が終わるんだぞ!)


 今にも泣きそうで、諦めそうな自分に活を入れながら、俺は瓦礫の山と現実に背を向けた。


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