「3−8」無能勇者、滑稽たる背中
困惑と、沸々と煮えたぎってくる怒りが、俺の頭の中を埋め尽くしている。
聖剣に溶かすための素材? 何を言っているんだこいつは、なんだそれは……ふざけやがって、そんなことあっていいはずがないだろう。そんなこと、あっていいはずが!
「ふざけんなよ糞爺! 騙されないぞ、そんな事をアーサーが、勇者が認める訳が無い!」
「事実は事実だ、聖剣を作るためには女の血肉が要る。そうそう、アーサーとか言う勇者だったが、二~三人は生きた女を連れてきたぞ? おかげで、いい剣が造れた」
怒りに水が掛けられたような心地になる。なんて? 今、なんて? アーサーが聖剣を造るために、生きた女性を、何の罪も無い守るべき存在を、利用したのか?
「……ふざけんなよ」
「さっきから何なんだお前は、儂に剣を造って欲しいんじゃないのか?」
「造って欲しいさ、造ってほしかったさ! でも、そんな……おぞましい方法で造られていただなんて、俺は知らなかった!」
喉の奥に酸っぱい物を感じて、俺はその場に肩膝をついた。気持ち悪い、信じたくない、俺が居たあのパーティは最高だった。自信を持って言えるんだ、言えたんだ……なのになんで、今更俺を惑わす? 何故、今更俺の無能を揺るがす?
「お前には申し訳ないが、もう既に聖剣錬成は始まっている、会わせることもできない」
「この……!」
「お前には聖剣が必要なのだろう?」
突き付けられたのは、死んだ獣のだらりとした顔。それは無機質に、抜け殻は俺の中を、俺の心を見透かすように覗き込んでいる。
「お前が此処に来たのは聖剣が欲しいから、魔王を倒す術が欲しいから。それはつまりお前の力では魔王を倒すなど到底不可能だという事、違うか? お前に実力があればあの女は生きたまま溶かされずに済んだ。――いいや、そもそもお前さえ強ければ、無能じゃなければ……お前の仲間は石にならずに済んだんじゃないのか?」
突き付けられた獣の死体が、俺を問い詰める誰かに見える。無能、無力、役立たず。他人を犠牲にしなければ魔王一人満足に殺せない弱者、代用品はやはり代用品……素直に最善の策を、最低限の犠牲で行うべきなのか?
「分かったのなら、とっとと消えろ。集中しなければ、剣を撃つことは出来ない」
血の滴る獣を担ぎ直し、ぺパスイトスは去っていく。その背中が小さくなっていくのを、拳を握りしめながらも俺は見届けた、見届けてしまったのだ。
そう、アイツの言う事は何もかも正解で、的を得ていた。俺は無力だし、アーサーの足元にも及ばないような存在だ。誰も死なせずに魔王を倒すなんて不可能なのかもしれない、そもそもイグニスさんはこの決断に怒りを覚えるのだろうか? 彼女は俺の事情を察し、それを受け入れてくれるのではないか?
「……俺は弱い」
まるで逃げ出すかのように、俺は再び霧の出ている森へと足を踏み入れた。
それはもう、手負いの獣が巣穴に逃げるかのように。
見えなくても分かる、無様で、滑稽。無能たる俺にはぴったりの背中だった。
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