「3-7」無能勇者、絶句する
拓かれた一本道を、怒りを絶やさないように歩く。俺の体は赤く激しく光っており、バチバチと赤い赫雷が迸っていた。果たしてこの怒りが、引き出せる力を維持するための物なのか、それとも抑えきれずに溢れ出た感情なのか……今となっては、もう分からない。だが、偽物であれ本物であれ、怒りによって生み出された赤い電撃は、周囲の霧を片っ端から消し飛ばしていた。
我を忘れるギリギリを保ち、俺は霧が晴れた場所に出た。そこには家があった、木材造りの古めかしい古民家という言葉が合うのであろうが、俺にとってはそんなことどうでもいい。
「イグニスさん! どこだ! どこにいる!?」
返事は無い。此処に居ないのか、何らかの方法で意識を奪われているのか……いずれにせよ早く見つけ出さなければ。――行動に迷った俺に対し、犯人たるそいつは先手を打ってきた。
「――そんな荒げた声で、女の名前を呼ぶな」
そこには、血の滴る獣を担いだ男がいた。身長は俺よりも大きく、汚い油まみれのくしゃくしゃの髪、腰には大小さまざまの玄翁が数本、背中には弓矢、右手には大きな弓が握られている。
「誰だよ、お前」
「儂はぺパスイトス、この森に隠居した鍛冶師だ。お前が勇者ガドだな? お前を試すべく、儂の霧幻影を使わせてもらった……試練を乗り越えた戦士には、必ず聖剣を撃たなければいけない決まりがある。少し癪だが、お前の為に剣を撃とう」
「それはありがたいけど、俺の連れを知らないか? 目の玉が飛び出るぐらいには綺麗な、女の人だよ」
言いたいことは山積みだが、まずは彼女の安否を確認したい。聖剣の話や文句はそれから……俺は、そう思っていた。比較的穏やかに、そして迅速に事を進めようとしていた。
「――銀髪の女か? まだ生きてるが、聖剣の鉄に溶かし込むための素材だぞ?」
それを聞いて、俺の体を迸る赫雷は消え失せた。怒りは驚きへと変貌し、後に頭の中が真っ白になった。目の前の男は、不思議そうな、ごく当たり前とでも言いたげな顔で俺を見ていた。
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