「3−6」無能勇者、怒りの赫雷

 その一撃は、とても鋭く強いものだった。

 使用した武器も並大抵の代物ではない、それはそうなのだが……それ以上に俺は、その一撃に纏わされたモノに驚きを隠せなかったのだ。


(赤い光、いいやあれは……高密度の魔力!? 溢れ出しているに過ぎないのか、あのレベルで!?)


 にわかには信じられない現象が目の前にあった。あのレベルの魔力があくまで「おまけ」なのだとしたら、あの一撃に込められた魔力はどれほどのものだろうか。想像するだけで、俺は怖かった。


「お前にも、できると思うけどなぁ」


 バチバチと赤い雷鳴を轟かしながら、霧の中の男は言う。懐かしいような、奇妙な感覚を従えて。


「コツを教えてやるよ。ーー怒れ、なんでもいいから……とにかくブチ切れろ」


 そう言い残し、俺が手を伸ばした時には既に姿はなかった。何だったのだろう……切り捨てるには余りにも引っかかる疑問。その横で、俺は納得もしていた。


(怒り、か……)


 そうだ、あのときも俺はベルグエルに対しての怒りでいっぱいだった。今の男ほどではなかったが……怒れば、あの赤い光が出せるのかもしれない。


『試練は続くぞ』

「!!」


 先程の男が倒した筈のモンスターの首がくっつき、再び俺に襲いかかってきた。間一髪で避け、俺は再び剣を握りしめた。


(いきなり試練試練って言うけどよ……)

「わけ分かんねぇんだよ、こんのクソヤロォォォッッヅヅ!!」


 バチッ。まるで静電気のような音が鳴り響き、赤く帯電した俺の一撃が放たれる。その一撃は森一帯の霧を晴らし、そこにはなかったはずの一本道があった。


『……ひとまずは、合格だ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る