「3−5」無能勇者、邂逅す

 霧の中になにかがいる。あれは間違いなく人ではないことだけは確か……だが、一体どんな攻撃方法で、どのぐらいの体躯なのかがさっぱり分からない。


(まずは様子を見るか? いや、それじゃ駄目だ……先手必勝!)


 体中に魔法という魔法を掛けまくる。先刻の戦いで見せられたあの赤い光……あの力で、相手が動く前に捻り潰す!


『ガァォァァォ!!』

「ぐわぁ!」


 横殴りの一撃、予想以上に早く、威力が大きい! ベルグエルの足元にも及ばない感じだけど、だったらなんで俺が遅れを取ってるんだ!?


「くっ……ううっ……」

『勢いよく挑んだが、あれがお前の切り札か?』

「そうだったら、なんだよ!」

『その程度の強化魔法が、お前の切り札なのか?』

「え……?」


 我に返って、自分の体が普通だということに気づく。そんな、まさか……体のどこも光っていない!? 


(畜生! だから魔法を使っても、そのままの効果しか出なかったのか!)

「げほっ……ごほっ、がはっ!」

『ーーお前にはがっかりだ』


 直後、痛みに悶える俺に追撃が襲いかかる。ギリギリのところで避けたが、それでも風圧でふっとばされた。


「っ……!」


 逃げて、逃げて、逃げ回る。攻撃のことなんて考えない、とにかく一旦逃げなければ。まずは、この森の外に出なければ。


 滅茶苦茶に俺の心臓を掻きむしる不安、俺を殺そうとする追撃者、森から聞こえた謎の声、消えた仲間の安否……課題があまりにも多すぎて、息切れしながら気が遠くなった。


(もう、駄目だ)


 心の中でかつての仲間と、新たな仲間に謝り続ける。やはり俺には、聖剣のない俺ではどうすることもできなかったのか? ーーああ、誰かーー。


「勇者が言うセリフじゃねぇだろそれ、まぁいいけどよ」


 願いが聞き届けられたのか、現れた「誰か」の一撃が、追撃者を両断したのであった。




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