「3−4」無能勇者、森の中へ

 イグニスさんとの雑談を楽しんでいると、霧に包まれた森が見えていた。ーー「霧隠れの森」、目的地についたのである。


「霧が木々の隙間から溢れ出ていますね、どういう場所なのでしょうか、ここは……」

「ルファースさんの話によると、人間に害はないらしいぞ。元々ここには村があって、魔獣の類を警戒して霧の魔法をかけたらしい」


 イグニスさんは頷きながら、興味深そうに「霧隠れの森」を見ていた。仕組みさえわかってしまえば何てことはないが、たしかにこの森は、所見で入ろうとは思わないだろう。そう思うほどには不思議な感じがして、なんだか踏み入ってはいけない気がしたのだ。


「どうしますか? ルファース殿の話なら、夜でもこの森の中なら魔物は出ないとのことですが」

「入っちゃおう。ここらへんに宿もないし、いざとなったらポケットの中に色々入ってるから」


 イグニスさんは俺の回答に深くうなずき、その上で森に足を踏み入れた。俺もあとに続くように、恐る恐る霧の中に足を突っ込んだ……ひんやりと、なんとも言えない感覚が、全身を包んだ。


 森の中は霧で覆われていて、ほとんど何も見えなかった。俺は不安になり、ポケットの中からロープを出した。


「イグニスさん、これを命綱に……」


 返答が来ない。


「……イグニスさん?」

『聖剣を手に入れたいと言うからには、まずはお前の力を示してみろ』


 声が森にこだまして聞こえてくる。誰の声だ? 何が目的? いや、そんなことよりも……!


「イグニスさんはどこだ!」

『そんなことよりもお前の力を示せ』


 聞く耳を持たない。俺が怒りに震え、加護も何もない鉄剣の柄に手を掛けた……その時だった。


『ーー試練、開始だ』


 声と同時に、霧の向こう側から『何か』が現れた。



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