「3−3」無能勇者、仲間の女心が分からぬ

 妖精国からドラゴンたちが消え去ってから三日が経った。

 体力は万全、少しではあるがベルグエルにも稽古を付けてもらった、食料などの旅に必要な物も、魔法のポケットの中に詰め込めるだけ詰め込んだ。


『ガド殿。私たちの感謝はこんなものではありません、どうか……どうか魔王を打ち倒したあなたを、私たちの国でねぎらわせてください。――再び会える日を、心待ちにしております』


 ルファースさんをはじめとするたくさんの妖精たちに見送られ、俺は再び旅に出た。目的地は『霧隠れの森』、神の武具をも造った名工ぺパスイトスに、新しい聖剣を作ってもらう事をお願いしに行くのである。


「はぁ、また一人かぁ。俺も勇者なんだから、そろそろ新しい仲間ができてもいいんだけどなぁ……」

「きっとすぐに増えますよ。というか、ガド殿のように勇敢な人間についていかない方が、おかしいと私は思います」

「そうかなぁ? そうだといいなぁ。……イグニスさん?」

「はい?」


 何か不都合でも? と言いたげなイグニスさんの表情。


「……なんでいるの?」

「私はガド殿の背中を任された相棒ですよ? 貴方の旅路についていくのは当たり前では?」


 色々飛躍しているけどなんだか否定したくない自分がいる。いや、確かに今まで戦ってきた中で一番背中を預けていられる人だった。でも、いくら何でも、この危険な旅に連れて行くのは無いんじゃないか。だって、イグニスさんにはベルグエルが――。


「父に、言われたんです。恩をバッチリ返してから戻って来いって」

「――」


 真っすぐな瞳だった。これは、断っても付いてくるタイプの人間の目。たとえ俺が全力ダッシュで逃げたとしても追いかけて来るし、隠れても見つけて来るし、とにかくついてくる気満々の目だった。


「……分かったよ。でも、俺が逃げろって言ったら逃げてくれよ? ベルグエルに殺されかねないから」

「ガド殿なら負けないと思いますが……」

「そういう問題じゃないんだって! 顔向けできないって意味! それと、俺の事は呼び捨てでよろしく頼むよ。なんかさっきから距離感あって嫌なんだ」

「分かりました。では、ガド。どうかこれからよろしくお願いします」


 差し出された手は美しく、輝いているのかと錯覚するほどの白さである。俺は歩きながらその手を掴み、しっかりと固い握手を交わした。――こうして俺の仲間として、イグニスさんが加わった。


「ところでガドは、家族以外に大切な人はいたりしますか?」

「急に変な質問だな。うーんそうだなぁ……アーサー達かな。あいつらが居なきゃ、俺も今頃石になってただろうし」

「……そうですか」

「???」


 真面目に答えたつもりだったのだが、何故か拗ねた表情のイグニスさん。何か不味い事でも言っただろうか……まぁ、考えていても仕方ない。一刻も早く、『霧隠れの森』に向かわなければ。

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