「3‐2」無能勇者、霧隠れの森へ

「ーーとまぁ、そんなわけなんですけど……」


 俺の話を丁寧に聞き、ルファースさんは顎をさすりながら眉をひそめた。聖剣が折れたこと、その代わりになるような剣を探していることを。


「すみません、俺の実力不足で、剣が折れてしまいました……本当に申し訳ない」

「いえいえ、あなた様はこの国を救ってくださいました。アーサー殿もきっと許してくれますよ」


 そうだといいな。小さくぼやいた俺を見かねて、ルファースさんは俺に言った。


「そもそも聖剣とは、持ち主と一心同体なのです。家族であれ仲間であれ、出力の半分が出せれば上出来なんですよ」

「じゃあ、俺は聖剣の半分の力で……」

「違います。あなたの場合、出力だけは最大だったんです。問題はその後……何度も他人が使用した結果、聖剣のほうが耐えきれなくなり、役目を終えて力尽きたのです」


 すこし肩を落とす自分の慢心が恥ずかしい。


「ーーさて、ここからが本題なのですが。ガド殿、霧隠れの森に行ってみてはいかがでしょうか?」

「霧隠れ……ああ、入ったら出られないっていうあれ?」

「いえ、それはあくまで子供のしつけのために着色されたものでして……実際はただの霧が出てる森です」


 俺も、子供の頃によく言われた。ーー言うことを聞かないと、霧隠れの森に放り込んでやる、と。


「その森がどうかしたんですか?」

「実はあの森には、ある妖精の刀鍛冶が住んでいるんです。名前は確か……そう、ペパスイトスです」

「ぺ……!?」


 偉い名前が出てきたものだ。ペパスイトスとはつまり、かつて神々の武具をも造ったとされる大妖精の名だ。生死不明と聞いていたが、まさかこんなところで名前を聞くことになろうとは……。


「私が手紙を送っておきましたので、その折れた聖剣を見せれば、新たな剣を作ることを快諾してくれるでしょう」

「本当に、ありがとうございます。なんてお礼を言えばいいのか……」

「国を救ってもらったのです、これぐらいはさせていただかないと」


 俺はルファースさんから地図と、とりあえずのお礼としてたくさんの金貨を貰った。彼女は復興の手伝いをするとかで、俺に深いお辞儀を残して去っていった。


「……森、か」


 懐かしさと無力さと、これから自分が成すべきことを、改めて思い返す。一刻も早く魔王を打ち倒し、仲間を元の姿に戻す……そう誓って、俺は地図に描かれた、霧が浮かぶ森を見ていた。


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