第二章──霧隠れの森編──

「3−1」無能勇者、苦悩する

 青い空には鳥や蝶が舞い、緑色の大地には彩り溢れる花が咲き誇っている。


 これが、この妖精国ブルテンが美しい国だという理由の末端に過ぎないという事実が、この国の最大の魅力なのかもしれない。ここに住まう彼らは絶大な魔力を有しておきながら、戦争を好まず……今あるもので工夫し、助け合って生きている。この国を訪れた人は皆こう言う。ーーこの国で一番美しいのは、この国で生きる民たちの心なのだ、と。


 そして、この国を魔王の手から救った勇者もまた、この国を美しいと思っていた。


「……さて、どうするかな」


 鞘から簡単に抜けてしまう聖剣、根本から折れた刀身はまるで「抜け殻」のようで、とても……一度は世界を救った剣には思えなかった。


(俺の実力不足も当たり前にあるけど、それ以上にベルグエルは、大義名分と決意を持った英雄は……強かった)


 あの気迫、強さ、不屈さを思い返すだけで身震いしてしまう。よくもまぁあんなのと戦ってまだ生きてるもんだなと自分を褒めてみる。


 現状を整理しよう。


 この世界は今、新たな魔王に脅かされつつある。このブルテンの他にも、暴力に脅かされている国がいくらでもあるはずだ。一刻も早く魔王を倒さなければ、陣取り合戦でまずこちらが負けてしまう。


 次に、使う聖剣が折れてしまった事について。


 これに関してはしょうがないで済ましたい気持ちがあるが、これを諦めてしまえば魔王を倒す術はなくなり、世界は奴の手に落ちてしまう……それだけは、それだけは避けなければいけない。それが、アーサーに託された使命なのだから。


「あら、ガド殿? こんなところで何をしていらっしゃるので?」


 悩める俺が振り向く。そこには、村娘が着るようなローブをまとった、ルファースさんがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る