「2−20」無能勇者、九死に一生を得る
(勝った……!)
荒い息を吐きながら、しかし俺はしまったと内心舌打ちした。魔力が、もう微塵も残っていない……致命傷ではないが、一撃を受けてしまった。回復なり応急処置なりを施さねば、その内出血多量で死に至ってしまう!
(何か、回復のための……そうだ!)
血まみれの懐に手を伸ばす。そこには、何の変哲もないポケットが一つ。――それは、二度も俺を窮地から救い出した、魔法のポケットであった。
手を突っ込む、探す。
(頼む、何か出てきてくれ……)
焦りに手汗を握り、朦朧とする意識の中、俺はついに何かを掴んだ。すかさずそれを引っ張り出し、俺はそれの正体を目視した。――それは、魔力を回復させることができるポーションだった。
すかさずそれを飲み下すと、少しではあるが魔力が回復した。すぐさま魔力を魔法に昇華させ、肩の傷に塗り込んだ。焼け石に水よりはいくらかマシで、取りあえずこの場で今すぐに死ぬ! という事にはならずに済みそうである。
(そうだ、ルファースさん!)
戦いに夢中で配慮をしていなかったため、無事かどうか分からない。祭壇の隅に寝そべる彼女の元に駆け寄り、外傷がないかどうかを確認する……目立った外傷は無く、無事だった。
「ルファースさん、ルファースさん!」
「……ぁあ、ガド、どの……?」
目を覚まし、ルファースさんがむくりと起き上がる。辺りをきょろきょろと見渡し、虚ろだった目が、ようやく威厳を持った目になった。
「一体、何がどうなって……ってきゃあっ!? べ、ベルグエルっ!?」
「近づかないでください。致命傷を与えましたが、まだ生きてます」
ルファースさんを片手で静止し、俺も初めてそれを確認した。まさかとは思っていたが……まだ微かに動いているし、生きてもいる。伊達に英雄として名を馳せている訳ではない事を、対峙して尚、改めて確信した。
(そうか、俺は、勝ったんだな……)
優越感に浸っている場合ではない。ルファースさんは無事だった、……やるべきことは、まだある。この妖精国には、妖精たちの平和を脅かすドラゴン共がまだまだいるからだ。
――ぐらり。
(え――?)
しまった、自分は今、自分で立てない程には手負いの状態なのだった!
「危ない!」
がしっ、俺を受け止めたその声は、聞き覚えのある声だった。――イグニスさんだ。
「どうして、此処に……?」
「どうしたもこうしたも、貴方の旅についていくと私は決めました。そんな事より……私を宿に送ったのは貴方ですね? 見くびられたものですね、私も」
中々に不機嫌そうなイグニスさんの声に申し訳なさを感じながら、俺は目を逸らしていた。
溜息をついたイグニスさん、困惑するルファースさん……だが、イグニスさんの様子が、何となくおかしい。血だまりの中で息をしている、ベルグエルの方を見ていたのだ。
「イグニスさん……?」
「……彼、ベルグエルは、私の父なんです」
「……え!?」
驚いた俺の声にか、あるいはイグニスさんの声になのか……なんとベルグエルが、血だまりからふらふらと起き上がったのだ!
「……いぐ、にす……」
その表情に気迫はあったが、次の瞬間を生きようとする生気は感じられなかった。
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