「2-17」無能勇者、歯軋りと鍔迫り合い
鍔迫り合いができることに疑問を抱いた。
俺は、目の前の英雄とは比べ物にならないほどに弱い。なぜか聖剣を使えるとはいえ、膂力などの素の力では圧倒的にベルグエルのほうが上なのだから。ーーしかし現実はそうでなかった。
「ウォラアッ! オラッ……イォォ!」
荒々しい獅子の如き連撃、一撃一撃は岩盤をも砕くであろう威力であることを、貧弱な体が理解した。この一撃も当たれば即死は当たり前、聖剣で受けたとしても、衝撃に耐えきれずに腕がひしゃげるに違いない……はずなのだ、なのに。
(なんだか、遅いな)
体から浮き出てくる赤い光。これが出てからというもの、体に違和感があったのだ。痛みに強くなり、負傷してもすぐに回復し、単純な身体能力は、以前とは比べ物にならない程に上昇している。
調子が上がっていく度に、体の芯が熱くなっていくのを感じた。赤い光が強ければ強いほど、熱もつられて上がっていく。
徐々に上がっていく身体能力は、遂にベルグエルとの互角を実現させるまでに肥大化した。
「なんだぁその銀の髪、赤い目は!」
「っ……!」
ベルグエルの凶暴な太刀筋とともに罵声が飛んできた。
「お前がそうなのか? ありえねぇとは思うが……いいややっぱり有り得ねぇな! とてもお前が、神サマと同い年には見えねぇ!」
何を言っているかはさっぱりだったが、相手は本気を出していないことが分かった。本気同士の戦いは無言だ、言葉は不要、命を狙い合う徒手空拳や斬撃の雨だけで、会話は成り立つ。ーー要するに、俺は対話の価値すらないと思われているのだ。
「舐めやがって……!!」
ひとまず距離を取らねばなるまい。間合いを完全に掌握されている……一瞬さえ、ポケットに頼ろうかと考える暇もなく、俺は徐々に追い詰められていたのだ。
(くそっ、たれ……)
歯軋りと、鍔迫り合いが続いていた。
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