「2-5」無能勇者、敗北する
眩い光、薙ぎ払う閃光。束ねられた輝きの激流は、目の前の巨漢の全てを飲み込んだ。
懐かしき光、暖かな光……アーサーが、真の勇者が持つべき輝きの力! それは温かく、いいや熱く、剣の柄からじわじわと俺の掌を焼き始めていた!
(力の制御が……できてない!?)
剣より生まれ出でる光が全て放たれ、俺は即座に聖剣を手放した。熱い……熱い! 手が焼けた、ただれた皮膚がひりひりと痛んで、とても今すぐに剣を握れそうにない。
どうか、この一撃で倒れていてくれ。この一撃から、うまくルファースさんは逃げていてくれ。……考えることはネガティブな事ばかりで、その間にも真実を秘めた視界が、開けていった。
そこには、抜き放たれた輝かしい刀身があった。
(――無傷、だと)
輝かしい刀身、しかし形は大岩を削り出して作ったかのように荒々しい。ぼんやりと青色を帯びる刃はむしろ暗く、聖剣と呼ぶには余りにも暗い印象である……しかし、しかしだ。ベルグエルの巨体と同等の大きさであるそれは、狂戦士の名に相応しい武器である棍棒のようにも思える。――剣というよりは、大剣に近い形だった。
「――こりゃ、どういう事だ?」
(避け――)
回避など不可能、先ほどの数倍は速い! 本気じゃなかったとでも言いたいのか? そんな……こんなの、まるで刃が立たない……。首が、締まる。
「今、テメェの足元に転がっている剣はな、最強の聖剣なんだ。妖精名工ペパスイトスが撃ち造った中の最高傑作、神々すら撃ち落とす最強剣! ――考えて見りゃそうだな、お前みたいな代用品、しかもまともな覚悟すら決めてないような輩に使いきれるわけがねぇよなぁ!?」
息が苦しい、吸えない、吐けない。即ち意識を保てない……ああ、もう、息が――。
「……やっぱ、やめた」
――え? 疑問が頭の中によぎったその瞬間、俺は再びヘドロの中に投げ込まれていた。
「目的の王女様も、『卵』も手に入れる事ができた。聖剣は俺じゃ壊せねぇし……あ、お前を見逃すのは敬意あっての侮辱じゃない。――お前みたいなへなちょこの血を浴びるのも虫唾が走るし、第一視界に入れたくねぇんだよ」
ヘドロの外から聞こえる図太い声には、殺意が込められていた。「二度とこの国に入って来るな、二度と俺の前に現れるな」と言いたげな……そんな、理不尽極まりない言い方が。
「ぶはぁっ! はぁ、はぁ……はぁああ!」
無様にも、俺は息をした。吸って、吐いて、吸って、吐いて。
「……」
見渡すと、そこにはもうベルグエルの姿は無かった。ルファースさんも、彼女が抱えていた『卵』とやらも。――僕は、負けたのだ。完全に負け、背負った国の運命はあっけなく零れ落ち……挙句の果てには、敵に見逃された。
無力さを象徴する掌の火傷を睨みつけながら、俺はその場で絶叫した。
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