「2-2」無能勇者、再会する

「危ない所を、本当にありがとうございました」


 下げられた頭の深さに、思わず舌を巻いた。思わず前屈を連想するほどの位置にまで下げられた頭、品のある佇まい……あれ? そういえばこの人、見たことあるぞ?


「あの……もしかしてルファースさんですか?」

「……? あっ、もしかして腰巾着様!?」

「やっぱり! 言い方に込められた無自覚の悪意……やっぱりルファースさんだ!」


 今思い出した、この人は……そもそも人間ではない。


「改めまして自己紹介を……私はルファース、妖精の国ブルテンの第二王女。あの時のブルテン、そして先ほど、二度も私をお救い頂き誠に感謝します」


 彼女と会うのは、これで二度目である。まだアーサー達と旅をしていた頃、俺は一度だけブルテンを訪れ、そして救ったのだ。あの頃は確か……魔王軍の占領を受けていたんじゃなかっただろうか? なんにせよ、これで聖剣が使えるようになる確率が飛躍的に上がった。


「所で、その聖剣は……?」

「……まぁ、色々あったんですよ」


 俺は、事の経緯を話した。自分が追放されたこと、追放されてからわずか一か月で彼らは魔王を打ち倒したこと。彼らが俺を追放したのは、俺を呪われた運命から外すためだったという事。――そして、今の自分は、新たな魔王を倒すべく旅をしている、勇者の代用品だという事を。


「それは……なんとも、胸が痛みます」

「いや、俺の力が及ばなかっただけです。それに……今度こそ、無能じゃないってことを証明できる機会ですし」


 彼女は、薄く笑った。なんだかもの言いたげではあったが、軽く睨んでそれは黙らせた。


「……ガド殿、お救い頂いた分際だということは承知しています。ですが今は、私の願いを聞いてくださりませんか?」

「僕にできることでよければ、なんでもしますよ」


 ――アーサー達も、きっとそうした。


「……では、単刀直入に、要点だけをまとめて、今のブルテン……その現状をお伝えいたします」


 なんだ、急に深刻そうな顔をして。いやな予感がした、俺程度が聞いてはいけない、下手に首を突っ込まない方が良い……そんな、勇者を背負った人間にあるまじき感情が、脳裏をよぎり。


「現在のブルテンは、恐ろしい男に占拠されています。――魔王軍四天王が一人、百竜軍団団長、『竜刻のベルグエル』という男に」


 風が吹く、頬を撫でる冷たい風が……しかし、俺の体の芯は、それよりもなお冷たく、今もなお恐怖に凍え続けていた。


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