6.追の物語
「メディは今日も待っているんだね……」
ブリキのロボット、アーモンドがそう言うと背中からショコラの声が聞こえます。
「もうみんな、忘れ始める時期なのよ」
二人の見守る先には、塔の下を見おろして友達がやってくるのを待つメディの姿がありました。
ですが、誰一人やってくる気配がありません。
「ニムでさえ、忘れてしまったんだね……」
アーモンドはメディに声をかけようとしますが、足が言うことを聞いてくれずメディに近づけません。
ショコラが邪魔をしているのです。
「今はそっとしておきましょう。どんなに辛くても、あの子は一人で乗り越えなければいけないの」
幸いにもメディに魔法をつかって悪さをしようという様子はありませんでした。
でも小さな体にいっぱいの悲しみが痛いほど強く伝わってきます。
二人は何もしてあげられないことが辛くて仕方ありません。
晴れの日も、曇りの日も、嵐の日も、メディは待ち続けました。
そしてある日、メディは知ったのです。
二度とニムには会えないことを。
もう次の段階へ進む時期がきていることを。
そして再び卵から
そして人々は魔女の子に関する記憶をすべて忘れてしまいます。
それは急激に姿が変わることへの恐れを生み出さないため、とも言われていますが正確なことは
そしてそれは魔女自身も同じことでした。
姿が変わる前のすべての記憶を失ってしまうのです。
メディにはそれが何よりも悲しくて仕方ありませんでした。
「さようなら、ニム」
その日メディは一人、卵の間へ入りました。
卵の間はその昔、人々が子供の誕生を祝う儀式を行っていた場所ですが、今ではそれを覚えている人はいません。
彼女は
「ゲテム・ソラ・ストス。すべての記憶と想いを私はここに
魔法の言葉を唱えると、メディの体をまぶしいほどの光が包みます。
塔の最上階から光があふれ、真夜中だというのに真昼のように辺り一帯が明るくなりました。
そしてその光が
卵のとなりには一人の少女の姿。
メディです。
「私は卵を守る……。私は卵を守る……。私は卵を守る……」
彼女は繰り返し、繰り返し、つぶやきます。
魔女が卵に還ったあと祭壇に
「私は卵を守る……。私は卵を守る……。私は卵を守る……」
彼女はずっと一人でした。
ずっと、ずっと長い間、一人きりで卵を守っていました。
でも最近、彼女はわからなくなっています。
「私は卵を守る……。私はニムに会いたい……。私は卵を守る……」
卵を守る? ニムに会う? どちらが私の本当の望みかしら?
「私はニムに会いたい……。私はニムに――私はニムに会いたい!!」
想いは
そしてある日、彼女は思うのです。
「そうだ! 村の子供たちから影をとってしまえばいいのよ! そうしたらまたニムに会えるわ!」
「もういい、止めにしてくれないかメディ」
ニムが突然、声をあげた。その声に従うように映像は静止する。
すこし驚いた表情で隣にいるニムの顔を見る彼女。
「ここから出してくれ。そして子供達の影を返すんだ」
しかし、その声に答えはなかった。
「君の想いはよくわかった……忘れてしまったこと、本当にすまないと思っている。けれど俺にも、村の子供達にも、今の生活とそして未来があるんだ」
ニムは何もない空間にゆっくりと視線を漂わせながら、訴えかけるように話し続ける。
「永遠に子供のままではいられない、それは君自身が一番よくわかっていることだろう?」
やや時間をおき、少女の反応を待つニム。
「聞いているんだろ? メディ?」
もう一度、辛抱強く静かに問いを重ねる。
「だったら、代わりにあなたがここに残って」
命令ともとれるその言葉はとなりに座っている彼女のものだった。
しかしその声はとても幼く、そして唇を動かしてはいたが声は全く別のところから響いているように思えた。
その視線は
メディの声だ、ニムは直感する。
「だめよメディ。影はもう子供達のところへ帰った、そうでしょう?」
続けて発したその声は彼女自身のそれであり、確かな存在感をともなっていた。
瞬間、瞳に光がもどり、表情からもその強い意思が読みとれる。
「また、あなたはそうやって邪魔をする! あなたには私の気持ちがわからないの? あなただってそうして欲しいのよ!」
彼女の瞳から
「だから……私だけを悪者にしないで!」
肩を震わせ、しゃくりあげるように泣くその姿は、まるでだだをこねる幼い少女そのものだった。
ややあって彼女は再び口を開いた。
力強さと優しさに満ちた声が諭すように言葉を紡ぐ。
「かわいそうな子……。もう終わりにしましょう。魔法を解きなさいメディ。さもないとニムは物語の世界に捕われてもどれなくなる」
「だめだね」
突然のその声は、まるで天から降り注ぐように何もない空間のその向こうから響いた。まるで見えない壁があるかのように声が反響している。
ニムと彼女は驚いて天を見あげ、次いで顔を見合わせた。
「ティルパの声だ」
ニムがそう言うのと意識を失った彼女が力なくニムの肩にもたれかかるのは、ほとんど同時だった。
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