第10話 酔狂殿下は漕ぎ穿つ
お姉様は自転車を降りられること無く、そのまま突撃されてゴブリンを一突きされた。その姿は、中々に神秘的であった。長く棚引かれる白髪、高揚されて赤く染まられている頬、上げられた口角、そしてダンジョン内にもかかわらず煌いておられる灼眼。
僕も負けられないと、戦斧を振りかぶりながら跳躍し、敵陣中央で水平に回転させて薙ぎ払う。それだけでゴブリンは手ごたえも無く切り落とされていく。実によい切れ味、流石は浅草ダンジョン街製である。もし今後もお姉様が戦われるのであれば、合羽橋道具街で武器を揃えても良いかもしれないと考えつつ、トマホークを弓兵へ投げ、2体の首を切り落とす。
お姉様も低い姿勢から鳩尾、心臓、頚椎、脳天、眉間と急所を的確に突かれ、しかも自転車でドリフトをされながら短槍を繰り出されて居る。あまりにも洗練された動きは、とても普段部屋で引きこもられているとは想像できないほどのものであった。
言葉を交わすことなく、ゴブリンの断末魔と切断音・刺突音、そしてお姉様の自転車を漕がれる音だけが響くダンジョン内。僕はこの環境に、懐かしさと心地よさを覚えていた。これがダンジョンホリックと言う奴なのだと、僕は自覚した。戦闘狂と呼ばれていた時代には認められなかったことだが、僕は確かにこの戦闘に快楽を覚えている。
お姉様もまた同様にして高揚されているらしく、その透き通った白いお肌は所々に朱を浮かべてられいる。その酔狂殿下と形容されるに相応しきみ笑みは、見るものを心酔させる覇気を放たれていた。これが、国を率いる者の風格なのだろうと、感心しながらにトマホークを回収しながら戦斧を振り回し、あっという間にゴブリン共は死屍累々へ姿を変えた。
「お姉様、お疲れ様です。」
「先に瑠々の言っていた通り、槍術は対人用だからな。ゴブリンにも有効であった。」
先刻、槍術とは何ら関係ないような戦法をされていたような気がするが、そこにはあえて触れないのが礼節なのだろう。
さて、そうして軽く言葉を交わした後、僕は交戦中だったろう戦士たちを見た。そこに転がっているのは、男女の屍。男性4人に女性1人。死因は脳震盪、出血性ショック、失血、心停止……おや?
「ぅ……ぁ……。」
生きていた。すぐに斧を優しく地面へ倒し、女性に跨る。
「呼吸あり、不整脈、腹部に外傷あれど出血確認できず。脈拍40~60、心臓マッサージします。」
お姉様の前で死なせてたまるものか。
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