第6話 暴言にカーテシー

「お姉様! お待ちください!」


 自転車を降りられていたお姉様の後を追い、側道を駆け抜ける。すれば、やはり憲兵が何やら口で争っていた。


「貴様。いい加減に道を開けてはどうだ。公共の利益を理由にここで逮捕してしまっても構わんのだぞ。貴様のような木偶の坊に構ってやる暇は無いんだ。」

「知ってるぜぇ憲兵さんよぉ。公共の利益ってのは具体的な指標を算出できない場合は立証が難しくなるんだろぉ? だからこうやって俺を挑発して暴行でしょっぴこうとしてる。そうだろ?」


「なかなかハイレベルな戦いだな。」


 お姉様の仰る通り、中々にしょうもない戦いだ。お姉様は急いでがっかりしたといった表情で皮肉たっぷりに仰って、やっぱり迂回しようと自転車に跨り直される。


「行くぞ瑠々るる。馬鹿の喧嘩ほど無意味なことはない。」


 っと、お姉様、そんなことをその音量で言ったら……。


「あぁん!?」


 やっぱり、捕まった。露骨に面倒くさい顔をして、僕は憲兵と言い争っていた恐らくは陸軍の兵士に立ち向かう。


「お引き取りを。お姉様はお急ぎであられます。」

「んだぁ? ダンジョン探索者如きが陸軍様に楯突こうってのか?」


 取り敢えず視線をこちらに誘導する事は出来た。その間にお姉様に離脱して頂ければ、後は頃合いを見計らって離脱するだけだ。


「臣民は皆陛下の下平等。憲法にも書いてあるはずです。それとも貴方様は憲法を否定なさるのですか?」

「チッ…そうは言ってねぇだろうがよ、阿婆擦あばずれが。」


 はぁ……阿婆擦れ、即ち変に世慣れしすぎている厚かましい人間の事だが、今の問答のとこに阿婆擦れ要素があったというのだろうか。とはいえ、そんな暴言を吐かれたとて所詮は負け犬の遠吠えと思えば悪い気はしない。

 エプロンスカートの中程を持って、綺麗な所作でカーテシー、欧州風のお辞儀をして差し上げる。無論とってつけた嘲りの笑顔もセットである。

 軍人さんは顔を真っ赤にしてこぶしを握り締めていたが、すんでのところで憲兵さんが先程の阿婆擦れ発言を追及し始めたので、上手く逃れることができた。ありがたい限りだ。


「済まないな、面白いことでもあるかと思ったのだが。」

「いえ、お姉様がそういうお方だとは伝え聞いておりますので。」




 裏路地を往き、浅草ダンジョンへと向かう。

 その道中で肘当て、膝当て、胸当て、ヘルメットを購入、装備して頂く。


「瑠々はいらないのか?」

「僕はそもそも敵に触れさせませんから。」

「ふっ、言うなぁ。」

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