第5話 騒ぎの臭い
ついでにサンバイザーと麦わら帽子を買い殿下に身に着けて頂き、我々は東京市随一のダンジョンと名高い浅草ダンジョンにやってきた。第二東京大電波塔しかり、浅草寺しかり、浅草公園六区しかり、スタジオニッポニメしかり、この浅草区には観光名所やらが多すぎる。凌雲閣のあった時代から変わらないが。
それでもって、外国人観光客が多いのだ。電動自転車とメイド服の相性は、想像するだけで悪寒のするレベルだろう。そして僕の前を行かれる殿下の綺麗な白髪も相まって、外国人たちの奇異の目とカメラが非常に困る。
下手をしたらそこ経由で今回の逃走がばれて免職、と言うことになったら本格的に困る。ということで、満面の笑みを振りまいて注目を少しでもこちらにずらす。
そんなこんなで、浅草ダンジョン。東京市随一と言っても、ダンジョン自体の規模はそこまで大きくない。大きいのは、その周囲の商店を始めとする施設群である。それはもう、日本でダンジョン装備を集めるならここか大阪ダンジョン街くらいのものだ。せいぜいが匹敵してあとは金沢と佐渡くらいのものだろうか?
故に、先ほどの装備購入も実はこの浅草ダンジョン街の一部で行っていた。にもかかわらずその後自転車で移動するほどの距離があったのが、規模を指し示す良い指標になるだろうか。
「と、何ですかね?」
左側道を自転車でダンジョンに向かっていると、車道だというのに人だかりができいて、車が停まっていた。いや、あれは車と言うより――
「憲兵だな。」
憲兵隊。陸海空三軍の法規的措置を所管する軍の内部自浄機関である。現代の大日本帝国においては、検察の公安と並び人気の公務職である。
にしても、ダンジョン街に憲兵……厄介ごとの予感がする。
「殿下、ここは迂回しましょう。」
その方が、現在の状況から考えれば妥当な決断だと諭すように伝える。同期から聞いた殿下のお性格を考えると、恐らく――
「いや、突っ込むぞ。」
やはり、こうなってしまった。有無を言わさずに迂回ルートへ向かおうとする僕の自転車を綺麗な白い手で掴まれ、無理やり前方へ向かわせられる。
「殿下、しかし――」
「しかしもへちまもあるか。それと、外では私の事は御姉様と呼べ。」
は? と、呆気に取られている間に、殿下…お、おね…おねえさま、は自転車をこぎ進めて渦中へと突っ込んでいく。
僕も頭を抱えつつ殿…お姉様を追い、悶々とお姉様と連呼して呼び方の耐性を付ける練習をしていた。
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