第4話 両手に槍ですか……
殿下を抱えてメイド姿で窓から飛び降りて数分。ダンジョンで鍛えたこの身体とスキルは簡単に警備を突破してしまった。
それはそれで著しい警備上の問題を呈するのだが、今回に限って言えばありがたい限りであった。
「まずは装備を整えましょうか。この服のままでもなんですし。」
「何を言っている。君はそのままに決まっておろう。」
えぇ……と、不満を顔に出しても、悦な笑みを浮かべられるばかりだ。この仕事、給料はいいが割に合わない。何と言うか精神を削られている。
なんにせよ、日傘を差されている殿下の今の装いは余りに目立つ。薄く水色の入った白のワンピースなのだが、メイド服を着た僕が傍に仕えていることもあって御嬢様感が余りに強すぎる。先ほどから周囲の視線が痛い……なんか半分以上こっちに刺さってる気がするが。
さもありなん、服飾店と靴屋に殿下をお連れして、深緑の長袖ニット服と薄茶色の長ズボン、紺色のスニーカーを買い、着装頂いた。
「それで、武器はどうされます?」
ダンジョン攻略においては、武器を用いるのだが、基本として古代の打突兵器などである場合が多い。理由は、ダンジョンモンスターの特徴である、血球の核を分解できる鉱物の貴重性にある。
銃弾などで消費するには余りに総量が少ないことから、再利用できる矢などでない限り飛び道具としての利用は想定されていないのだ。
「君は何を使うのだね?」
殿下に尋ねられて、僕は2本の武器を手に取った。長柄の戦斧と、トマホーク、即ち投げ斧である。
僕の基本戦術は、戦斧での広域牽制及び掃討からの集中打撃、トマホークでの急所狙いと遠距離攻撃である。
「ふむ……ならやはりここは槍だな。」
何がやはりなのか分からないのだが、槍はダンジョン攻略には比較的向いている武器ではある。殿下のお取りになった短槍は投げ槍としても使えるものだ。
って殿下、何故2本持っているんです?
「手数は多ければ多いほどいい。」
「いや……もういいです……。」
殿下のご身分を考えれば、最低でも盾は持って頂きたかったのだが、華奢なお身体ではまともに攻撃を受け流せるとも思えない。であるからして、攻撃と機動性に極振りした装備は確かに合理的ではある、と、僕の戦闘脳が判断してしまったために、あきらめの言葉を口にした。
そのまま、ダンジョンへの脚として電動自転車を見繕わされた。その間に殿下は食糧を買って来られた。買い物を無事に済まされただけ安心である。
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