第3話 お供しましょう
「そう、だから君を私に付けたのさ。」
なるほど、と思った。殿下は、前述の大学の同期が殿下を狙ったヒットマンの銃弾を受け宮内省病院へ入院したために生まれた傍仕えの後任に、何故か僕を選ばれだ。
その理由としては、同期が信頼できる人間として挙げたということを建前としていて、つまり暗殺未遂により受けた傷心を配慮する周囲に対して、上手く偽装して見せたわけである。
僕が課長を務めていたのは、国交省の外局、迷宮庁の、それも施設課。ダンジョンの事についてであれば、この国でも有数の知識人であるという自負がある。と、考えれば殿下の御考えは非常に適当だろう。
「まぁ、あとは彼が君を可愛い可愛いというからどんなものなのか見てみたかった、と言うのもあるがね。」
あいつ……退院祝いは拳で決まりだな。
「それはいいですが、御許可は?」
ダンジョン攻略は、特別な許可がある場合を除き最低年齢18歳から。殿下はつい先日16歳の誕生日を迎えられたばかりで、そこを暗殺者に襲われたという背景がある。
そんな殿下に、ダンジョン攻略が認められる、というのは中々考えづらいことである。
「ふっ……ダンジョン法では〈日本国民の18歳未満のダンジョン探索を禁ずる〉、また〈日本に16年以上在留している者にダンジョン探索権を認める〉とある。言いたいことは分かるかな?」
……なるほど。
このダンジョン法に関する16年在留条項は、在日本外国人に探索を認めるほかに、海外でダンジョンによる急激な人口減少に対処するため有権者を16歳以上とした成人年齢の引き下げ措置に合わせるために用意された。
そして、殿下は皇族であらせられる。つまるところ、日本国民ではないのだ。
つまるところ、殿下はダンジョン探索資格を最初から持っている、と言うことになる。
「……分かりましたよ。そこまで仰るのであれば、不肖この
陛下からのお願いのこともあるから、僕は殿下のこの我儘にお付き合いさせて頂くことを決めた。
「では、私を運んでくれ給え。」
そう仰って、殿下は僕の方に手を伸ばされてくる。……え?
「早く抱きかかえんか。」
いえ、そんな不満そうな顔をされましても……とは思いつつも、ため息を一つついて殿下を抱きかかえる。
「UVカットクリームは塗られました?」
「無論だ。」
「UVカット眼鏡は?」
「持っている。」
「陛下や周囲に連絡は?」
「全て済ませてあるさ。行こう。」
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