第2話 女装ですか……
とはいえ、流石にここまで高貴なお方にそう言われるとは思っていなかった。いや、確かに頭の頂点から足のつま先までじっくり見定めるようにしていたから何かとは思ったが、流石にまさか、である。
非常に面倒極まりないし、こちらにも男としての尊厳があるのだが……まぁ致し方あるまい。彼女は僕の雇い主のようなものだ。ここは受け入れよう。
「どうやら私と体躯はそうそう変わらないようだからな。暫し待っていてくれ給え。見繕ってこよう。」
だが、返事をする前に有無を言わさずそう告げられてしまった。この方の相手をするのは大変そうだ。女装自体はまぁそこまで抵抗も無いが、こうも手玉に取られるとあまり気分は宜しくない。
「はぁ……頼みますよ、殿下。」
クローゼットを漁る殿下の背中に小さくそう告げて、頭を抱えた。
いや、なんでこうなる。
「実に素晴らしいじゃないか! やはり私の見立ては間違っていなかったな!」
僕に宛てがわれたのは、給仕服。つまるところのメイド服である。しかもシックな英国風のものではなく、フリフリスカートのポップなやつ。いわゆるメイド喫茶等で重宝されるやつだ。ホワイトブリムを頭につけて、紅いチョーカーを首に巻き、フリフリエプロンスカートを着装、さらに白に金の刺繍の入った長手袋を嵌め、白のパンティストッキングを履かされた上、加えて黒いメリージェーン、つまりはつま先の閉じられ足の甲に飾の留め金が通っているエナメルシューズを装備。どこからどう見てもメイドさんである。萌え萌えキュンとかしちゃう系の落ち着いたメイドさんである。
しかも化粧までされたので唇はほんのり朱に染まっているし、肌は薄白くなっているし、頬は少しだけ赤いし、まつ毛は綺麗に伸びている。
「で…なぜこんな?」
正直、女装させられるのはまぁ納得がいくが、ここまで本格劇にやられると面食らう。なんかお古のブラジャー着けさせられたし。
「それはだね。これからダンジョンに行くからだよ。」
「……は?」
ダンジョン。それは20世紀最後の贈り物とも言われた厄災。2000年に飛来した太陽系外小惑星群が地球各地に落着、付着していた微生物が急速に進化し、モンスターを誕生させた。その小惑星を中心としたモンスターのコロニーを、ダンジョンと呼ぶのだ。
だが、殿下はそこに行くと言うのだ。ただでさえ病弱で有名な殿下が、わざわざ死地であるダンジョンへ?
そう思っていれば、殿下はおもむろに仰った。
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