【六十九.本当の家族・一】

 そのかわいいおとこの子は、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も居てくれて、同じようにピンクのレジンのボールでお母さんと遊んでいた。お母さんも覚えていてくれて、回を重ねる度に向こうから話しかけてくれるまでになった。


 名前は、塩谷かいと。今月二歳になるかわいいおとこの子。

 わたしが入院している病院──多摩南部地域病院──近くの保育園の二歳児クラスのすみれ組さん。ちょうどわたしが看護師さんに散歩に連れ出してもらえる時間に、お母さんが保育園にお迎えに行っているようだ。その帰りに電動アシスト自転車で、近くに立地しているこの児童公園に立ち寄り、三十分程度遊ばせるのが日課みたい。


「優しいお姉ちゃんだー。ねえ? かいと?」

「うん」

「……お姉ちゃんが……こわくないの?」

「? うん」


 かいちゃんは、わたしに懐いてくれた。ちょうどわたしのおとうとがそうであったように。出会う度涙をぼろぼろ零すものだから、お母さんは心配してくれた。


「どしたのー? そんなん泣いちゃって。……お名前は?」

「……なぎさ……あらはまなぎさです……」

「結構歳近い? 何歳?」

「……十七歳です」

「十七っ? まじ? えっ、女子高生なんっ? 同い年くらいかと思ったっ」

「……おとうとが……おとうとがいたんです……この子くらいの……」

「そう……そうだったんだね……そうだ、うちのかいとでよければ、遊んでやってよ! なぎさちゃんのこと、好きみたいだよ?」

「……ほんとですか?」

「だから早く元気になって、遊んであげてね? お姉ちゃん」


 ……


 新しいかいちゃんを見つけたわたしは、みるみる回復していった。ひと月後には立てるようになり、看護婦さん付き添いの元、いっしょにレジンのボールで遊んだ。

 お母さんとも仲良くなった。塩谷かおりさんと言って、まだ二十四歳の若いお母さんだ。毎日毎日会うものだから、会話も弾んだ。


「えっ、お父さんもお母さんもいないの?」


 わたしが天涯孤独だと知ると、かおりさんは驚いた。


「はい。今年、火事で亡くしました」

「まだ高校生なのに、つらいね……」


 引き取り手がないので、退院手続きも上手くいかないんです。そう明かしたその数日後。


 ……


 令和六年。十二月二日。月曜日。午後四時一分。十七歳のわたしに、かおりさんは思いもよらないことを打ち明けた。


「ねえ、なぎさちゃん。うちの子に、ならない?」

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