【三十七.小山内裏公園・一】
七月五日。金曜日。午後一時二分。わたし、十六歳。
炎天下の八王子は多摩ニュータウン。今日の気温は三十三度だと、朝のNHKが言っていた。梅雨ももうすぐ終わり。今日は太陽が朝から猛威を振るっている。窓を開けていても、ぬるい空気が入るだけで、ちっとも涼しくなんてならない。
人目のつかないところで。そう白鷺みそらさんが言ったから、わたしは彼女の車椅子を押して、校内でその場所を探した。けれど、ふたりいると、いつもの十倍は視線を感じるような気がした。学校の中だと否応にも目立ってしまうようだ。だから、彼女の望むようにするのは難しそうだった。
高校のとなりに、多摩ニュータウンでいちばんくらいに大きい、
夏の日差しがカンカン照りのタイルの歩道を歩く。ローファーに収めた足は、じりじりと焦がされるように痛い。暑くない? わたしがそう聞くと。
「大丈夫です。暑いの、気になりません」
車椅子の彼女は感情を見せずに、後頭部でそう言った。その後は、なんの会話もなく、しばらく歩いた。
公園に着いた。入口にほど近い、そこそこ大きい池のほとりのベンチに、白鷺さんの車椅子を止めた。わたしもそのとなりに座った。となりには大きい木が植えてある。葉っぱをお天道様に向けて思いっきり伸ばしてる。……ここなら木陰で日差しもそれほど痛くないだろう。
「……で。お話って、なあに?」
「……」
ぱしゃぱしゃ。カモやコイが夏の日差しを存分に受けて涼し気な水音を立てている。ほんのり泥臭い、コイのにおいが鼻についた。彼女はそんな水辺の生き物を見ている。もっと遠くを見つめているのだろうか。……いや、もしかしたら何も見ていないのかもしれない。
……ふと、そう思った。
だから、わたしの方から沈黙を破ることにした。
「先月の今頃なんだー」
「かいりですか」
「……うん。六月の八日で一周忌だね」
「去年の六月八日……ですか?」
「そうだね、わたしはちょうど風邪をひいていてさ。学校を休んでたから会いに行けなかった。そしたら昼過ぎの二時頃。病院からの電話を受けたおばさんから、知らせを聞いて。それで」
「いいえ」
唐突に、白鷺みそらさんが遮った。
「荒浜先輩は、その日風邪をひいてなんかいなかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます