【第四章.赤いメガネの少女】

【三十.カウンセリング・三】

 今令和何年? 何月何日? 何曜日? 今何時? わたし何歳だっけ?

 真っ白。真っ白な部屋。天井から床まで、全部真っ白。カウンセラーの先生の白衣も真っ白。

 全てが明るいこの部屋で、わたしはせっせと忙しい。


「こんにちは。ご機嫌はいかがですか」


 いつもの赤い縁のメガネのカウンセラーさんが、いつものように聞く。


「また来たの。わたし、今いそがしいんだけど」


 かたかたかたかた。


「……何にって? 見てわかんない? 今ね、かいちゃんの、ちっちゃなお洋服作ってるの。最近編み物にはまっててさ。もうすぐ帰ってきてくれるから。もうすっかり寒いでしょ? セーターでも作ってあげようかなって」


 かたかたかたかた。


「どんな、セーターでしょう」

「ピンクのね、くまの柄のセーター。昔からね、かいちゃんのトレードマークなんだ。……けっこう、難しいんだよ? このくまちゃんのね、なんとも言えない表情を作るのが……ほら、見て! 割とうまくいったと思わない? ……ねえ。ねえったら」


 かたかたかたかた。

 ふう。先生が息を吐く。そして、笑顔で聞いてきた。


「どこから、帰ってくるのでしょう」

「どこからって……そりゃあ……」


 かたかたかたかた。


「どこでしょう?」

「なんだっけ。ほら、あそこよ、あそこ。……なんだっけ」


 かたかたかたかた。


「それがどこだか、答えることができますか」

「あー、ほら、あそこだよ、あそこ。えーと、んーと……」


 かたかたかたかた。


「荒浜さん」

「あーっ! うっさい! うっさい! うっさいんだよ!」


 がんっ、がんっ。


「乱暴はいけません」

「うるせえ、あそこっつったら、あそこなんだよっ! あたしのかいちゃんは、あそこからもどってくるんだよっ」


 どがんっ。がんっ。


「どこだか、わかりますか」

「しつけえんだよっ、かいちゃんが驚くだろ、静かにしろよっ」

「どうして、驚くのでしょう」

「そりゃあ、だって、ここに……わたしのここに……」

「もう一度ききます。どこにいるのでしょう」

「……かいちゃん……? かいちゃんっ? ねえ、かいちゃん、どこへ行っちゃったんだっけ。ここに、あたしのここに居たはずなんだけど! ねえ、そこの赤いメガネのあなた。かいちゃん、どこへ行ったかしりませんか。……ねえ、聞いてんの? ねえ。ねえったらぁーっ!」


 どがん。からんからん。


 かたかたかたかた。


 ……


「……落ち着かれましたか」


 ……


「ねえ、返してよう。わたしのかいちゃん、返してよう。ひっく……ぐすっ……ねえ、返してよう……ねえ……」

「今日はここまでにしましょう」

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