【二十一.追跡・二】
六月八日。土曜日。午後七時十八分。わたし、十六歳。かいちゃんの命日。
かいちゃんがどこに連れていこうとしている。ここに来てやっとそれがわたしにもわかった。
府中本町に着いたところで、今度は電車の出口側に手が引っ張られた。……ひょっとして、お母さんの入院している多摩総合医療センターに連れていこうとしているのかな。そう思って、西国分寺で降りようとすると、椅子側にまた
「ねえ、かいちゃん。どこへ行きたいの?」
トンネルの轟音に紛れて見えないおとうとに声をかけても、返事はなかった。と、次の新小平で腕がひっぱられた。
……そうか。かいちゃんが行きたいのはお家なのか。
小平にある、かいちゃんとお母さんの小さな白いアパートの小さなお家。小さいけれど、大好きなおとうとが暮らしていた、大好きな家。わたしの家みたいな、偽物の親子じゃない。本物の、愛に溢れたかいちゃんの家。わたしはそこが大好きで、何度も何度も、数え切れないくらい通った。わたしにとっては間違いなく本物の家だった。
新小平の半地下のホームから長いエスカレーターを乗って、青梅街道に面したロータリーを出て、かいちゃんの家は左。
……と思ったら右に向かってかいちゃんの後ろ姿が走っていった。あれ。おうちじゃないのかな。重たいお腹をさすりながら五分ほどまた駆け足で追いかけて、細い路地に入ると、綺麗な白い壁の家の前で見失った。綺麗な柵に白いバラが何輪も咲いている。綺麗なお家だ。とても裕福そうに見える。でも、かいちゃんは一体どこに……
そう思って見渡して、ハッとする。
森田。
表札にはそう書いてあった。そして、これまたバラが咲く綺麗でお洒落なその家の門の下に、白くて小さな、パスモのカードくらいの大きさの便せんが置いてある。可愛い四葉のクローバーのシールで封がしてある。四葉のクローバー……かいちゃんが好きでヘアピンとかストラップとかで身につけていた。わたしにとっては、かいちゃんのイメージは、ピンクのくまと四葉のクローバーだ。
そしてそこに何か書かれている。
「りくくんへ」
なんでこんな所に、こんな手紙が?
小さなかいちゃんがわたしに見せたかったのは、これなの……? これの為に、南大沢からわたしを呼んだの?
差出人のないその小さな四葉のクローバーのシールの便せんを、わたしは制服のスカートの左のポケットに仕舞った。
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