【十三.彼氏・二】
六月八日。土曜日。南大沢に帰ると、午後三時半ごろになっていた。わたし、十六歳。かいちゃんの命日。
ぽつぽつと雨が降ってきた。京王線の特急を降りると、生ぬるい風が雨のにおいを運んできた。給料日が近かったけど、何も食べてなくて、お腹がぺこぺこに減った。駅前にはキッチンカーが並んでるけど、大抵高い。駅前の、黄色いMのマークのハンバーガーチェーンに入ることした。同じクラスで比較的仲の良い舘野紗綾がクルーをしていて、彼女のレジに当たった。
「はーい、いらっしゃい、なぎー。何頼むー?」
「うーんとねぇ」
いちばん安いハンバーガーとお水だけ頼んだ。最近、お腹が減ってお腹が減ってたまらない。お陰で太っちゃったらしくて、ぽっこりとお腹が出てしまって妙に目立つのが嫌だ。
「なぎちゃん?」
注文を待っていると急に呼ばれたので、後ろを振り返る。超びっくりした、りっくんが居るんだもん。
「よければ、いっしょに食べない?」
「え、森田くん?」
紗綾が目ざとく反応する。
「注文いい?」
「う、うん、いいけど……」
紗綾はどぎまぎとオーダーを取る。
りっくんは、期間限定のボリューム満点のハンバーガーのセット。やっぱり、スポーツ部の男の子は違うなあ……
「お待たせいたしましたー……って、ちょっとちょっとなぎー」
紗綾が小声で手招きする。
「なんで森田くんがあんたと食べるのよ」
「あ、いってなかったね、カレシなの。付き合ってるの、わたしたち」
えー!
悲鳴にも落胆にも聞こえる声で紗綾が口を押さえる。
そんな彼女は放っておいて、ふたりで店内に歩みを進める。この店はいつも満席だ。二人がけの狭い座席を待たずに確保出来たのは奇跡的だと言っていい。
「ねえ、なぎちゃんって、どこに住んでるの?」
りっくんの予想外の言葉にびっくりする。
「ここだよ。地元なの、わたし」
「え、でも昨日もその前も、一緒に駅に入ってったじゃん?」
「ああ……」
めんどくさい。りっくんには悪いけど。……でも、どう説明しようかな。迷ったけれど、思ったままに答えてみた。
「わたし、もうひとつ家があるの」
「なにそれ、パパ活とか?」
「はは。……もしそうだったら、どうする?」
「それはないよ」
りっくんは持ち前の天真爛漫な笑顔で歯を見せた。
「俺、嘘ついてるの見破るの得意だから」
得意げに、ふふん、と笑う。……でもね、奇遇だわ。わたしもなんだよ。おばさんのおかげで嘘を見抜くのが大得意。冷静を装ってるみたいだけど、わたしにはわかっちゃうの。
りっくん。きみ……今、焦ったでしょ?
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