第12回 キーワード:量産型

『量産型勇者の逆襲』


異世界ファンタジーの世界観を持つ「エターナル・クエスト」。この世界では、毎年100人の勇者が地球から召喚されていた。

「はぁ...またか」

召喚の光に包まれ、見知らぬ世界に転移した佐藤健太は、大きなため息をついた。周りを見渡すと、同じように困惑した表情を浮かべる99人の若者たちがいる。彼らは皆、17歳。高校2年生だった。

「勇者様たちよ、よくぞこの世界にお越しくださいました」

荘厳な声が響き渡る。目の前には、巨大な玉座に腰かける老人がいた。白髪と長い髭、そして豪華絢爛な衣装から、この世界の王であることは一目瞭然だった。

「私は、この世界の統治者であるアルフレッド3世。皆様方には、我が国を救っていただきたい」

王の言葉に、召喚された若者たちの間でざわめきが起こる。しかし、健太は無表情のまま、ただ黙って聞いていた。

「毎年100人も召喚して、一体何年続けてるんですか?」

健太の冷ややかな質問に、王は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに取り繕った。

「勇者様、確かにこの召喚は長年続いておりますが、それだけ我が国の危機が深刻であるということなのです」

健太は再びため息をつく。周りの若者たちも、少しずつ状況を理解し始めたようだった。

「つまり、僕たちは量産型の勇者ってことですね」

健太の言葉に、王は苦笑いを浮かべる。

「そのような言い方は...」

「事実でしょう?毎年100人も召喚して、それでも危機が去らないなんて、どう考えてもおかしいです」

健太の言葉に、他の若者たちも同意するように頷き始めた。

「確かに、我が国の危機は一朝一夕には解決できません。しかし、皆様方の力が必要なのです」

王の言葉に、健太は冷笑を浮かべる。

「じゃあ、僕たちが帰れる条件は何ですか?」

その質問に、王は沈黙した。周りの若者たちも、一斉に王を見つめる。

「...申し訳ありません。一度召喚された勇者が元の世界に戻ることは...不可能なのです」

王の言葉に、会場は騒然となった。泣き出す者、怒り狂う者、呆然と立ち尽くす者...様々な反応が見られた。

しかし、健太は冷静さを保っていた。

「そうですか。じゃあ、僕たちは自由に行動していいんですね?」

王は困惑した表情を浮かべる。

「いえ、勇者様方には魔王討伐の旅に出ていただきたいのです」

健太は首を横に振る。

「断ります。僕は、自分の人生を自分で決めます」

その言葉に、他の若者たちも同調し始めた。王は焦りの色を隠せない。

「しかし、勇者様方には特別な力が与えられているのです。その力を使わないのは...」

「僕たちの力でしょう?使うも使わないも、僕たちの自由です」

健太の言葉に、王は反論できなかった。

「わかりました。皆様のお気持ちはよくわかりました。では、まずは我が国の事情をお聞きください」

王の提案に、若者たちは渋々同意した。そして、この世界の歴史と現状について、長々とした説明が始まった。

要約すると、この世界は魔王と呼ばれる存在に支配されており、人類は常に脅威にさらされているという。そのため、地球から勇者を召喚し、魔王討伐を目指してきたのだという。

「しかし、毎年100人も召喚して、それでも魔王が倒せないのはおかしいですよね」

健太の指摘に、王は言葉に詰まる。

「実は...魔王は不死身なのです」

その言葉に、会場は再び騒然となった。

「じゃあ、僕たちを召喚した意味はなんですか?」

健太の質問に、王は深くため息をつく。

「魔王は不死身ですが、封印することは可能なのです。しかし、その封印も長くは続きません。そのため、定期的に新たな勇者たちの力が必要なのです」

健太は、その説明に納得がいかない様子だった。

「つまり、僕たちは消耗品ってことですね」

その言葉に、王は反論できなかった。周りの若者たちも、自分たちの立場を理解し始めていた。

「では、僕たちにはどんな選択肢があるんですか?」

健太の質問に、王は困惑した表情を浮かべる。

「勇者様方には、魔王討伐の旅に出ていただくか、もしくは我が国の各地で魔物退治などの活動をしていただくことになります」

健太は首を横に振る。

「それ以外の選択肢は?例えば、普通に暮らすとか」

王は難色を示した。

「しかし、勇者様方には特別な力が...」

「その力を使うかどうかは、僕たちが決めます」

健太の言葉に、他の若者たちも同意の声を上げ始めた。王は、状況をコントロールできなくなっていることを感じ取ったようだった。

「わかりました。では、皆様にはしばらくの間、この城で過ごしていただき、この世界のことを学んでいただきます。その後、それぞれの道を選んでいただきましょう」

王の提案に、若者たちは同意した。そして、彼らは城内の宿舎へと案内された。

健太は自分の部屋に入ると、ベッドに身を投げ出した。

「はぁ...どうすればいいんだ」

彼は天井を見つめながら、自分の置かれた状況を整理しようとしていた。突然、ノックの音がした。

「はい?」

ドアが開き、先ほどの召喚式で隣にいた少女が顔を覗かせた。

「あの、佐藤くん?少し話してもいいですか?」

健太は起き上がり、少女を部屋に招き入れた。

「僕の名前、覚えてたんだ」

少女は照れくさそうに笑った。

「はい。私、鈴木美咲です。さっきの佐藤くんの発言、すごく勇気づけられました」

健太は苦笑いを浮かべる。

「そうかな。僕は単に、この状況が納得いかなくて...」

美咲は真剣な表情で健太を見つめた。

「私も同感です。でも、佐藤くんみたいにはっきり言えなくて...」

健太は少し考え込んだ後、口を開いた。

「美咲さん、僕には考えがあるんだ。この世界の真実を知りたい」

美咲は驚いた表情を見せる。

「真実?」

健太は頷いた。

「うん。毎年100人も召喚して、それでも状況が変わらないのはおかしいと思わない?そこには、何か隠された真実があるはずだ」

美咲は健太の言葉に深く頷いた。

「確かに...私もそう思います。でも、どうやって真実を知るんですか?」

健太は微笑んだ。

「それが、これから僕たちが考えなきゃいけないことなんだ。美咲さん、協力してくれる?」

美咲は迷わず答えた。

「はい!私も真実を知りたいです」

そうして、健太と美咲は密かに調査を始めることを決意した。彼らは、この世界の真実を知るために、様々な情報を集めることにした。

翌日、城内での生活が始まった。召喚された若者たちは、この世界の言語や文化、魔法や武術の基礎などを学ぶことになった。

健太と美咲は、表向きは大人しく授業を受けていたが、裏では様々な情報を集めていた。城の図書館で古文書を読み漁ったり、他の若者たちから噂を集めたりしていた。

そんなある日、健太は図書館の奥深くで一冊の古い本を見つけた。

「これは...」

本のタイトルは『勇者召喚の真実』。健太は興奮を抑えきれず、美咲を呼んだ。

「美咲さん、こっち!」

美咲が駆けつけると、健太は本を見せた。

「これ、絶対に重要な情報が書いてあるはずだ」

二人は息を潜めて本を開いた。しかし、そこに書かれていた内容は、彼らの想像をはるかに超えるものだった。

本によれば、勇者召喚は単なる儀式に過ぎず、実際には魔王など存在しないという。召喚された若者たちの力は、この世界の支配者たちが自分たちの権力を維持するために利用しているのだという。

「こ、これは...」

美咲は言葉を失った。健太も驚愕の表情を浮かべていた。

「やっぱり、おかしいと思ってたんだ...」

健太は拳を握りしめた。

「僕たちは、ただの駒だったんだ」

美咲は涙ぐみながら言った。

「どうすればいいんでしょう...」

健太は深く考え込んだ後、決意の表情を浮かべた。

「この真実を、みんなに知らせないと」

美咲は不安そうな表情を見せる。

「でも、それって危険じゃ...」

健太は頷いた。

「うん、危険だと思う。でも、このまま黙っていられない」

そして、健太は美咲の手を取った。

「美咲さん、一緒に戦ってくれる?僕たちの、そしてこれから召喚されるかもしれない人たちの未来のために」

美咲は迷いながらも、健太の手をしっかりと握り返した。

「はい...一緒に戦います」

こうして、量産型勇者たちの反乱が密かに始まろうとしていた。彼らは、この世界の真実を暴き、自分たちの運命を自らの手で切り開こうとしていた。

しかし、彼らの前には幾多の困難が待ち受けていた。支配者たちは、自分たちの秘密が暴かれることを恐れ、あらゆる手段を使って彼らを阻もうとするだろう。

健太と美咲、そして彼らに共感する仲間たちは、果たしてこの世界の真実を明らかにし、自由を勝ち取ることができるのか。彼らの戦いは、まだ始まったばかりだった。


健太と美咲の密かな調査と真実の発見から数週間が経過していた。二人は慎重に仲間を増やし、今では召喚された100人のうち、30人ほどが彼らの味方となっていた。

しかし、その動きは支配者たちの目を逃れることはできなかった。

ある夜、健太は急いで美咲の部屋のドアをノックした。

「美咲さん、大変だ!」

ドアが開くと、寝ぼけ眼の美咲が顔を出した。

「健太くん?どうしたの?」

「俺たちの仲間の一人が捕まった。支配者たちが動き出したんだ」

美咲の目から睡魔が消え、真剣な表情に変わった。

「じゃあ、私たちも...」

健太は頷いた。

「ああ、行動を起こす時が来たんだ」

二人は急いで他の仲間たちに連絡を取り、城の中庭に集合した。月明かりの下、30人ほどの若者たちが緊張した面持ちで集まっていた。

健太が前に立ち、声を潜めて話し始めた。

「みんな、聞いてくれ。俺たちの仲間の一人が捕まった。もう隠れているわけにはいかない。今夜、この城を出て、真実を広めに行くぞ」

仲間たちの間でざわめきが起こった。不安と決意が入り混じった空気が漂う。

美咲が健太の隣に立ち、付け加えた。

「怖いのはわかります。でも、このままじゃ私たちはずっと利用され続けるんです。今こそ立ち上がる時です!」

彼女の言葉に、仲間たちの表情が引き締まった。

突然、警報が鳴り響いた。城中が騒然となる。

「くそっ、見つかったか!」健太は歯ぎしりした。

「みんな、急いで城を出るぞ!」

30人の若者たちは、急いで城の出口へと向かった。しかし、そこには既に大勢の兵士たちが待ち構えていた。

「観念しろ、反逆者ども!」

兵士たちの声に、若者たちは立ち止まった。しかし、健太は諦めなかった。

「みんな、聞いてくれ!」健太は兵士たちに向かって叫んだ。「俺たちは反逆者じゃない。この世界の真実を知っただけだ。勇者召喚は嘘だ。魔王なんていないんだ!」

その言葉に、兵士たちの間でも動揺が広がった。

その時、アルフレッド王が現れた。

「愚かな若者たちよ、何を企んでいる」

健太は王に向かって歩み寄った。

「陛下、もういい加減認めてください。この召喚システムの真実を」

王は冷たい目で健太を見つめた。

「お前たちに何がわかる。この世界の平和を守るためなら、多少の犠牲は仕方ないのだ」

その言葉に、健太の怒りが爆発した。

「犠牲だと!? 俺たちの人生を勝手に奪っておいて、よくそんなことが言えますね!」

突如、城の上空に巨大な魔法陣が現れた。そこから、巨大な魔物が姿を現す。

「な...何だ、あれは!」

兵士たちも若者たちも、恐怖に震えた。

王は高らかに宣言した。

「見よ!これこそが魔王だ。お前たち勇者が封印し続けてきた存在なのだ!」

しかし、健太は冷静さを失わなかった。

「違います。あれは幻影です。魔法で作り出された偽物だ」

王の表情が曇った。

「な...何を言う!」

健太は仲間たちに向かって叫んだ。

「みんな、力を合わせろ!俺たちの力で、あの幻影を打ち砕くんだ!」

30人の若者たちは、互いに手を取り合った。彼らの体から光が溢れ出す。その光は次第に強くなり、巨大な光の柱となって空へと伸びていった。

「う...嘘だ!」王の叫び声が響く。

光の柱が「魔王」に当たると、まるでガラスが砕けるように、幻影が粉々に散っていった。

城にいた全ての者が、唖然とその光景を見つめていた。

光が収まると、健太が再び声を上げた。

「見たか!あれが本当の姿だ。魔王など最初から存在しなかった。俺たちは、ただの政治の道具として利用されていただけなんだ!」

兵士たちの間で動揺が広がる。中には武器を置く者も出てきた。

王は膝をつき、うなだれた。

「すべては...国のためだった...」

健太は王に近づき、静かに言った。

「国のため? 本当にそうですか? それとも、自分たちの権力を守るためだったんじゃないですか?」

王は答えられなかった。

その時、城の扉が開き、一人の老人が入ってきた。彼は、かつて勇者として召喚された者の一人だった。

「私が、すべてを説明しよう」

老人の話によると、かつてこの世界には本当に魔王が存在していた。しかし、初期の勇者たちによって完全に打倒されていたのだ。ところが、勇者たちの力を恐れた当時の支配者たちは、自分たちの権力を守るために嘘をつき始めた。魔王はまだ生きている、定期的に勇者を召喚して封印し続けなければならない...そう偽り続けてきたのだ。

その話を聞いた城にいた全ての者たちは、言葉を失った。

健太は深くため息をつき、再び皆に向かって話し始めた。

「もう、嘘はやめよう。俺たち召喚された者も、この世界の人々も、みんなで新しい世界を作ろう。魔王の脅威に怯える必要のない、本当の平和な世界をさ」

美咲が健太の隣に立ち、付け加えた。

「私たちには力がある。その力を、この世界をより良くするために使おう。でも、それは強制じゃない。自分の意思で選ぶべきよ」

健太と美咲の言葉に、召喚された若者たちも、兵士たちも、城にいた人々も、皆が深く頷いた。

それから数ヶ月が経過した。

この世界は大きく変わり始めていた。召喚システムは廃止され、異世界から来た若者たちは自由に生き方を選べるようになった。彼らの多くは、この世界に残ることを選んだ。その特別な力を、世界をより良くするために使うことを自ら決意したのだ。

健太と美咲は、今では新しく設立された「異世界交流評議会」のリーダーとして、地球とこの世界の架け橋となっていた。彼らは、両世界の発展のために尽力していた。

ある日、健太と美咲は城の屋上で夕日を見ていた。

「健太くん、私たちが正しい選択をしたって、本当に思う?」

健太は美咲の手を取り、優しく微笑んだ。

「ああ、そう信じてる。俺たちは、自分たちの運命を自分の手で切り開いた。そして、この世界をより良い場所にするきっかけを作った。それは間違いなく正しかったはずだ」

美咲も笑顔を返した。

「うん、私もそう思う。これからも一緒に、この世界のために頑張ろうね」

二人は寄り添いながら、夕焼けに染まる新しい世界を見つめていた。かつて「量産型勇者」と呼ばれた彼らは、今や自らの意思で世界を変える立場になっていた。

その夜、健太は日記にこう書いた。

『俺たちの戦いは終わった。いや、新たな戦いが始まったと言うべきかもしれない。でも、それは俺たち自身が選んだ戦いだ。もう誰かに強制されることはない。

これからの道のりは決して平坦ではないだろう。でも、俺には仲間がいる。美咲がいる。俺たちなら、どんな困難も乗り越えられるはずだ。

異世界に召喚されたあの日、俺は絶望した。でも今は思う。あれは、新たな可能性への扉が開いた瞬間だったんだと。

俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。』

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