第10回 キーワード:高性能
『超性能魔導具師、異世界で無双す』
蒼井玲二は、目を覚ますと見慣れない天井を見上げていた。
「ここは…どこだ?」
身体を起こそうとして、違和感に気づく。いつもの柔らかいマットレスではなく、硬い大地の感触。周囲を見回すと、そこは広大な草原だった。遠くには鬱蒼とした森が見え、空には見たこともない鳥が飛んでいる。
「まさか、異世界転移…?」
SF小説や漫画でよくある展開を思い出し、玲二は苦笑した。しかし、現実はフィクション以上だった。
「システム起動。ステータス確認」
突如、玲二の視界に半透明の画面が浮かび上がる。
『名前:蒼井玲二
レベル:1
職業:超性能魔導具師
スキル:
・魔導具作成 LV1
・魔力感知 LV1
・物質分析 LV1』
「なんだこれ…」
驚きを隠せない玲二だったが、すぐに状況を受け入れた。どうやら本当に異世界に来てしまったらしい。それも、ゲームのようなシステムがある世界に。
「とりあえず、周囲の状況を確認しないと」
立ち上がった玲二は、持ち物を確認する。幸い、愛用のバックパックが一緒に転移してきていた。中には、ノートPC、スマートフォン、充電器、そして工具セットが入っている。
「よし、これなら何とかなりそうだ」
玲二は電子工学を専攻する大学生だった。趣味で電子工作をしており、様々なガジェットを自作していた。その知識と技術が、この異世界でも役立つことを願う。
「まずは、この世界の魔力について調べないと」
玲二は「魔力感知」のスキルを使ってみる。すると、周囲に漂う不思議なエネルギーが感じ取れた。それは目に見えないが、確かに存在している。
「これが魔力か…面白い」
好奇心旺盛な玲二は、さっそくスマートフォンを取り出し、魔力の測定を試みる。しかし、画面は反応しない。
「そうか、ここには電波がないんだ」
がっかりする玲二だったが、すぐに新たなアイデアが浮かぶ。
「待てよ。魔力をエネルギー源として使えば…」
玲二は工具セットから部品を取り出し、魔力を電気に変換する装置の製作に取り掛かった。「魔導具作成」のスキルが、その過程を助けてくれる。
数時間後、簡易的な魔力発電機が完成した。
「よし、テストだ」
スマートフォンを接続すると、画面が明るく光る。
「やった!」
興奮する玲二だったが、すぐに冷静さを取り戻す。この世界での生存が第一だ。スマートフォンのGPSは機能しないが、コンパスアプリは使える。
「北に進めば、何か見つかるかもしれない」
玲二は荷物をまとめ、北へ歩き始めた。途中、珍しい植物や鉱石を見つけては「物質分析」のスキルで調べる。そのデータは、今後の魔導具作成に役立つかもしれない。
歩くこと約2時間。遠くに街らしき建物群が見えてきた。
「よし、文明圏だ」
安堵する玲二だったが、その表情はすぐに凍りついた。街の上空に、巨大な影が現れたのだ。
「ドラゴン…?」
伝説の生物が、現実に存在していた。しかも、そのドラゴンは街に向かって炎を吐いている。
「まずい、街が襲撃されている!」
玲二は迷った。このまま逃げるべきか、それとも…。
「いや、助けられる可能性があるなら、やらなければ」
決意を固めた玲二は、急いでバックパックの中を探る。ノートPCと工具セット、そして先ほど作った魔力発電機。これらを組み合わせれば、何かできるはずだ。
「システム、魔導具作成のスキルを最大限に発揮してくれ!」
玲二の頭の中に、アイデアが次々と浮かんでくる。ノートPCの演算能力を利用し、魔力を増幅する回路を設計。それを魔力発電機に接続し、さらに指向性アンテナを取り付ける。
「これで、高出力の魔力ビームが撃てるはずだ!」
完成した魔導具は、見た目は雑然としているが、玲二にはその性能に自信があった。
「さあ、テストだ」
玲二は魔導具をドラゴンに向け、スイッチを入れる。するとものすごい勢いで青白い光線が放出され、ドラゴンに直撃した。
「グオォォォン!」
ドラゴンは苦痛の叫びを上げ、その巨体をくねらせる。しかし、まだ落下はしない。
「クソッ、出力が足りないのか」
玲二は必死で魔導具を調整する。魔力の流れを最適化し、出力を限界まで上げる。
「もう一発だ!」
再び発射された光線は、先ほどの倍以上の輝きを放っていた。ドラゴンに命中すると、その巨体を貫通。空中で爆発し、無数の光の粒子となって消えていった。
「やった…」
玲二は膝から崩れ落ちる。魔導具は過負荷で燃え尽き、もはや使い物にならない。しかし、街は救われた。
しばらくすると、街の門が開き、騎士団らしき一団が玲二の元にやってきた。
「誰だ、お前は? あの光線は何だったのだ?」
厳しい表情の騎士団長が問いかける。
「あー、その…」
言葉に詰まる玲二だったが、ふと思いついて答えた。
「私は、蒼井玲二。超性能魔導具師です」
騎士団長の目が見開かれる。
「超性能魔導具師だと? そんな職業は聞いたことがないが…確かにあの光線は只者ではない」
玲二は内心でほっとする。どうやらこの世界には「超性能魔導具師」という職業はないらしい。しかし、その実力は証明できた。
「我が国の王がお前に会いたがるだろう。来てもらおうか」
そう言って騎士団長は、玲二を街へと案内し始めた。
玲二は深呼吸をする。ここからが本当の冒険の始まりだ。異世界で、現代知識と魔力を融合させた超性能魔導具。その可能性は無限大だ。
「よし、行こう」
玲二は騎士団と共に、未知の街へと足を踏み入れた。これから始まる物語を、心の中で楽しみにしながら。
玲二が王宮に招かれてから数ヶ月が経過した。彼の「超性能魔導具師」としての名声は瞬く間に広まり、王国の重要人物として扱われるようになっていた。
王宮の一室に与えられた専用の工房で、玲二は日々新たな魔導具の開発に励んでいた。現代の科学技術と、この世界の魔力を融合させることで、驚異的な発明品を次々と生み出していったのだ。
「玲二殿、また新しい発明か?」
工房に訪れたのは、玲二の助手となった王宮魔導士のリリアだった。知的で美しい彼女は、玲二の発明に深い興味を示し、魔法の知識で彼をサポートしていた。
「ああ、リリア。丁度いいところに」玲二は嬉しそうに彼女を招き入れる。「これを見てくれ」
彼が見せたのは、小さな球体だった。
「これは何です?」リリアが不思議そうに尋ねる。
「通信魔導具だ。これを使えば、遠く離れた場所でもお互いの声が聞こえる」
リリアの目が輝いた。「まさか!それは凄い発明です!」
玲二は得意げに続ける。「王国の各地にこれを配備すれば、情報伝達の速度が飛躍的に向上する。軍事面でも民生面でも、大きな利益をもたらすはずだ」
その時、突然警鐘が鳴り響いた。
「これは…」リリアが顔を曇らせる。「敵襲の合図です!」
二人は急いで王城の高台へ駆け上がった。そこには既に国王とその側近たちが集まっていた。
「陛下、どういった事態でしょうか?」玲二が尋ねる。
「蒼井殿か」国王が振り返る。「隣国が大軍を率いて攻め込んできたのだ。どうやら、お前の発明品を狙っているらしい」
玲二は唇を噛んだ。自分の技術が戦争の原因になるとは。
「私にできることはありませんか?」
国王は深刻な表情で答えた。「正直なところ、危機的状況だ。敵の数があまりにも多い。だが、お前の力を借りられれば…」
玲二は決意を固めた。「分かりました。全力を尽くします」
彼は急いで工房に戻り、開発中の魔導具を総動員した。通信魔導具で各部隊の連携を強化し、魔力レーダーで敵の動きを把握。さらに、魔力増幅装置を利用して城壁の防御魔法を強化した。
戦いは凄まじいものだった。敵軍の猛攻に、王国軍は苦戦を強いられる。しかし、玲二の魔導具が局面を打開していく。
通信の円滑化により、包囲網にも隙が生まれた。レーダーのおかげで、夜襲も未然に防げた。そして、増強された防御魔法は、敵の魔法攻撃を悉く跳ね返した。
戦いは三日三晚に及んだが、最終的に王国軍が勝利を収めた。
歓喜に沸く王城で、玲二は静かに空を見上げていた。
「玲二殿」リリアが近づいてくる。「英雄と讃えられていますよ」
玲二は苦笑いを浮かべた。「英雄か…でも、この戦争の原因を作ったのも私だ」
リリアは優しく微笑む。「あなたの発明が、多くの命を救ったことも事実です。技術そのものに罪はない。それをどう使うかが大切なのです」
その言葉に、玲二は何かに気づいたように顔を上げた。
「そうだ…技術の使い方か」
数日後、玲二は国王に謁見していた。
「陛下、一つ提案があります」
「なんだ、蒼井殿。言ってみろ」
玲二は深く息を吸い、言葉を紡ぐ。
「私の技術を、平和利用に限定してはどうでしょうか。戦争ではなく、人々の暮らしを豊かにする。そうすれば、他国も敵対するのではなく、協力しようと考えるはずです」
国王は思案顔で黙り込んだ。しばらくして、ゆっくりと口を開く。
「だが、それでは国防が弱くなるのではないか?」
「いいえ」玲二は力強く答える。「豊かさこそが最大の防衛になります。そして、私たちの技術で他国を助ければ、友好関係が築けるはずです」
国王は腕を組み、しばし考え込んだ。そして、ついに決断を下した。
「分かった。その方針で行こう。蒼井殿、これからは『平和技術開発省』の長官として、その手腕を振るってもらいたい」
玲二は感激で言葉を失った。リリアが傍らで小さく拍手する。
それから一年。王国は大きく変わっていた。
玲二の発明した魔導具により、農業の生産性は飛躍的に向上。魔力を動力とする車両で交通網は整備され、通信魔導具で情報革命が起きていた。
気象を制御する魔導具で自然災害は激減し、魔法と科学を融合した医療技術で、かつては不治とされた病も次々と克服されていった。
その恩恵は、周辺国にも及んでいた。かつての敵国も、今では親密な同盟国となっていたのだ。
「本当に素晴らしい変化です」世界地図を眺めながら、リリアが感慨深げに言う。
「ああ」玲二も頷く。「技術の力を、正しく使えば、世界は変えられる」
「それにしても」リリアがクスリと笑う。「あなたはいつになったら、元の世界に戻る方法を研究するのですか?」
玲二は少し照れたように頭をかく。「実はな…もう戻る気はないんだ」
「えっ?」リリアが驚いて振り返る。
「だって」玲二は真剣な眼差しでリリアを見つめる。「大切な人がここにいるからな」
リリアの頬が赤く染まる。「も、もう…」
二人は互いに見つめ合い、そっと唇を重ねた。
その時、玲二のスマートフォンが光る。魔力で作動するよう改造してあったのだ。画面には、ある計算結果が表示されていた。
『異世界転移の法則解明 - 進捗度99%』
玲二はそれを見て、クスリと笑う。「やれやれ、タイミングといい勝負だな」
「何かあったのですか?」リリアが不思議そうに尋ねる。
「いや、何でもない」玲二はスマートフォンをポケットにしまう。「それより、新しい発明のアイデアが浮かんだんだ。お前と一緒に作ってみないか?」
リリアは満面の笑みを浮かべる。「はい、喜んで!」
二人は手を取り合い、工房へと向かっていった。
玲二の心の中で、故郷の世界への未練は、もはや微かな懐かしさでしかなかった。彼には新しい使命があり、愛する人がいる。そして、無限の可能性を秘めた魔導具の研究がある。
「さあ、新しい世界を作ろう」
玲二はリリアの手を強く握り、未来へと歩み出した。彼らの前には、輝かしい明日が広がっていた。
はるか彼方の空で、龍が悠々と飛んでいく。その姿は、この世界の神秘と可能性を象徴しているかのようだった。
玲二は空を見上げ、心の中でつぶやいた。
「きっと、俺に与えられた使命はこれだったんだ。この世界と、故郷の英知を融合させ、よりよい未来を作ること」
彼の瞳に、決意の炎が宿る。超性能魔導具師の物語は、まだ始まったばかり。玲二と、彼を取り巻く仲間たちの冒険は、これからも続いていく―。
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