自動ドアには気を付けろ

その後、俺は佐久間さんの案内で駅前のカフェに来ていた。


「ここには友達とよく来るんです」


「すごくお洒落だね」


「ええ、それに飲み物も美味しいですよ」


店の周りには様々な種類の観葉植物が置かれておりお洒落な雰囲気が漂っている。

こんなお洒落空間、しかも隣にはほぼ初対面の女子がいる。

これは絶対にやらかさないぞと気合いを入れた。


佐久間さんが自動ドアを通って先に入店した。

俺もそのまま自動ドアを通り過ぎようとした時だった。

僕がまだ自動ドアを過ぎていないのに僕がまだ居ようとお構いなしというように閉じ始めたのだ。

有り得ない事だと思ったが、常にこういう事が身の回りで起こっていて慣れていた俺はその時、冷静でいられることが出来た。

この前では肩が挟まれてしまう。

そう思った僕は咄嗟に上半身を捻り肩が当たらないようにして、少しでも時間を稼ぎ、その間に自動ドアを突破しようとした。

しかし、流石自動ドアだ、とても間に合いそうに無い。

そして俺は自動ドアに挟まれた。

背中と胸に衝撃を感じる。

俺を挟む事でようやく人がいる事に気付いたのか、挟まれたのは一瞬で、すぐに自動ドアが開いた。

俺はそのまま平然とした顔で目を見開いて驚いている佐久間さんに近付いて声を掛けた。


「よし、じゃあ、注文しようか」


僕がそう言うと佐久間さんは大きく顔を横に振った。


「いやいや、なんでそんなに平然としていられるんですか!? 普通に挟まれていましたよ!? 大丈夫ですか?」


慌てて詰め寄ってくる佐久間さんに俺は落ち着いて答える。


「自動ドアも俺を挟んだ事にすぐに気が付いて、ドアを開いてくれたし、挟まれたのは一瞬だったから、痛いには痛いけどそこまでじゃないよ」


「幸有さんは犬から守ってくれた時もそうでしたけど体がお強いんですね」


「いや、ただこういう事に慣れているだけだよ」


「……大変そうですね」


佐久間さんは不思議そうな顔をしているが、取り敢えず納得をしてくれたようだ。

二人とも注文を済ませ、席に座った。

やがて飲み物が運ばれてくると佐久間さんが頭を下げた。


「改めて犬から助けてくれたのに逃げてすみませんでした」


俺は慌てて手を横に振った。


「いやいや、逆に巻き込んでしまってごめん。それに僕の裸を見せてしまった事の方が申し訳なかったというか」


すると今度は佐久間さんが手を横に振った。


「それは私がその時に限って忘れ物をして探しに行ったのが悪かったんです」


「部活の準備じゃなかったんだ」


「私は部活してません。あの日はピンを落として探していたんです」


そう言いながら二人で謝りあっていたが、やがて佐久間さんがふふっと笑った。


「これではいつまで経っても終わりませんね。お互い様という事にしましょうか」


「そうだね。お互い様という事で」


そうして二人で笑い合った。


その後は拓磨と美咲の話になった。


「幸有さんはあの二人と仲が良いですよね」


「小さい頃から一緒だからね」


「幼馴染ですか、楽しそうで良いですね」


「そうだね。ゴールデンウィーク中も遊びに行くし、仲良くさせてもらっているよ」


僕がそう言うと佐久間さんは「ゴールデンウィーク……」と呟いた。


「幸有さん、もしよろしかったらゴールデンウィーク中に私とも二人で遊びに行きませんか?」


「ふ、二人で!?」


「ええ、幸有さんは面白い方なのでまだお話したいなと思いまして」


まさかの提案だったが、断る理由も無い。


「勿論、行き先は後で相談しようか」


佐久間さんが頷くと連絡先を交換した。

予定がまた一つ埋まり、俺は今年の連休がより楽しくなりそうだと感じた。


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