根拠は血管

 その後の健康診断は問題がなく終わり、今は昼休みだ。

俺は拓磨と美咲と母が作ってくれた弁当を食べていた。


「美咲は健康診断はどうだった? 体重は増えていたか?」


拓磨がいつもの調子で美咲に問いかけると人を射抜けるような視線が返ってくる。


「叩かれたい?」


その反応を見て拓磨は俺に小声で話しかけてくる。


「こりは太ったな」


「太ったね」


「しかも、なかなか」


「なかなか太ったね」


「二人ともそんなに叩かれたい?」


『……ごめんなさい』


叩かれるのは痛いので二人で素直に謝った。


「私の事ばかりだけじゃなくて二人はどうだったのよ?」


「俺は身長が伸びたな」


「俺は採血が去年より早くなったな」


「とても健康診断の感想とは思えない……」


「その調子なら来年はみんなと回れそうだな」


「なんだか良い話になってる……」


「看護師さんも来年こそはって意気込んでいたからね。来年こそはみんなで回れるように頑張るよ」


「さらっと看護師さんと仲良くなってる……」


健康診断の話があらかた終わると話は朝話したゴールデンウィークの話に移った。


「拓磨と美咲はゴールデンウィークの予定はどうなの?」


「ガチガチには決まってないから予定は合わせられるぞ」


「私も似たようなものね。大吉は?」


「俺も全然合わせられるから大丈夫だ」


「それなら次は何処に行くかだな。とはいえ、俺らは近場だと行き尽くしてるからな」


「あっ、それならドリームランドに行きたい。しばらく行ってなかったよね」


ドリームランドは最寄りの駅から電車で20分程到着する、国内最大の遊園地だ。


「確かに行ってなかったな、行くか、ドリームランド」


「それならゴールデンウィークの初日はどう?」


「確かに初日だと逆に人少なそうね」


「よし、じゃあ決定だな。大吉、マーフィーを発動させるなよ」


「そう言うとフラグになっちゃうからやめなさい」

「大丈夫、今日血管出せたしいける!」


「まさかの根拠が血管……」


こうしてゴールデンウィークの予定が決まった。


 そして放課後、俺が拓磨と美咲と帰宅しようとしていた。


「あの、すみません」


声をかけられたので振り返ると今朝通学中に出会った女子がいた。


「今朝は突然逃げ出してすみませんでした。突然の出来事で驚いてしまって……」


そう言うと女子は勢い良く頭を下げる。


「そんな謝らないで!俺でも動物マーフィーは初めてだったから驚いたし」


「動物……何ですって?」


顔を上げた女子の顔に疑問符が浮かんでいる。

それを見た美咲が気付かれないように俺の腹を肘で小突く。

俺は慌てて咳払いをすると「こっちの話だから気にしないで」と場を取りなした。

身内ノリに疑問を持たれるととても恥ずかしい。


「私、佐久間南と言います。改めてよろしくお願いします」


「幸有大吉です。こらこそよろしくお願いします」


「今朝、野良犬から庇ってくれたお礼を言いたくて、友達にその話をしたんです。そうしたら、もしかして血液検査の人じゃないかって言われて来たんです」


「まさかの血液検査で有名人……」


隣で美咲が静かに突っ込む。


「わざわざありがとう。着替えの事とかも謝りたいと思ってたから」


「あの、そしたらもし良かったら、この後、喫茶店でも行きませんか?お礼もしたいので」


「いや、でも、わざわざお礼をされる程では……」


「折角誘われたんだし、お礼とか大袈裟に考えずに行ってみたら良いんじゃないか?」


断ろうとした俺を拓磨が遮る。

確かにこんな機会は中々ないし断るのも失礼かもしれない。


「そしたらご一緒しようかな」


「はい!よろしくお願いします」


そうして、俺と佐久間さんは二人で喫茶店に向かったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る