50_空を裂く

 風の力には、単に風を生み出し放出するだけでなく、風に当たった対象物に自らのマナを付与する効果もある。ダンテ自身、風の力を使うたびに、体内のマナが風に乗って出ていく感覚があった。


 ならば、マナではなくマゴについても、風の力を使用すれば体内から放出することが可能なのではないか。そんな考えが、ダンテの頭の中でよぎる。


 一か八かの賭けではあったが、それは彼にとってこの危機的な状況を乗り越えるための唯一の手段だった。両手を伸ばし風の力を前方にブワッと放出する。


「狙い通りだ、体内のマゴが出ていく!!ものすごい風圧だ!?」


 彼の狙い通り、マナとともに風の力で体内を蝕んでいたマゴもまた体外に放出することに成功する。ありったけの風の力を前方にぶっ放したことで、ダンテの体は勢いよく、後方へと飛ばされる。


 あらかじめ、後方を確認し障害物のない方向へ身体を飛ばしたため、身体を建物や壁にぶつけることなく、黒い球体から離れることができた。


「やったわね!これで、あのよく分からない球体から、逃げられるわね」


 メイテツは、ダンテが無事にマゴを放出し黒い球体から逃避できたことに安堵し、嬉しそうな声を出す。


「ああ、だけど、俺は逃げるわけじゃない。このエウノキ村に、戻ってきたのは、この村を魔物や魔族たちから守るためだ。奴を野ばらしにして置く訳には行かない」


 ダンテは、村の脅威となりうるあの黒い球体に対して闘争心を静かに燃やし続けていた。


「まさか、今、あいつを倒す気なの!?」


 メイテツは、思ってもみなかったダンテの言葉に驚愕する。


「そのまさかだ。この逃避を攻撃に転じる」


 ダンテは、刻々と小さくなっていく黒い球体の方向に狙いを定めるように目を細め見つめる。


「ほんと、私の想像の域を軽々と超えてくれるわね、ダンテ」


 メイテツは、彼に感心したように答えた。 


「やろう、二人で。あいつを」


 ダンテは純粋な声で、そう言った。


「ええ、もちろんよ」


 メイテツは、ためらうことなくダンテに肯定の意を示す。


 ダンテは、メイテツを変形させ、地面に着地させる。地面についたメイテツをその場に固定させる。


 びよーん。


 地面についたメイテツは、吹っ飛んでいくダンテの身体に引っ張られてゴムのように伸びていく。


 そして、ギリギリまで伸びたところで、振り子の要領で後ろに飛ばされていたダンテは、今度は前方へと方向転換する。前方へと飛ばされた瞬間、地面に固定していたメイテツを離す。


「ここで断ち切る……」


 ダンテの体と心はさらに加速し点となった黒い球体に向かってその刃を向ける。

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