33_真・脱力

 ぐんぐん身体の底から無尽蔵に力が湧き上がってくる。


 急に何倍も身体が強くなった感覚だ。

 

 ダンテが拳をぎゅっと握りしめ、湧き上がる力を実感しながら神々しく輝く身体を眺める。


「補助魔法で、しばらくの間、身体能力を上げられるの。できることが増えると思う」


 カリンは、補助魔法を使って身体能力を上げたことをダンテに伝える。

 

「ありがとう、カリン!今の状態なら、大木のところまで行けるかもしれない。身体能力が飛躍的に上がった今ならば」


 カリンのおかげで、ダンテは一縷の希望と勝機を見出す。それがなによりも、彼にこの絶望的な状況を打破する力を与えた。


「ピギャー!!!!」


 不死鳥たちは、一斉に強烈な叫び声をダンテにブワッと浴びせかけ、怒りと敵意を現す。


 不死鳥を相手にしていても、埒が明かない。一気に大木まで駆け抜ける!


 ダンテは、大木の方を見ると深呼吸をし気持ちを落ち着かせると、意識を集中させる。


 真・脱力。


 ダンテは、全身の力を抜き一気にグッと力を入れた。身体の負担が大きいため足部に限定し、力の入れ具合も、本来引き出せる力の3分の1ほどに抑え脱力を行っていた。


 だが、身体能力を飛躍的に向上している今ならば、本来の脱力による動きをほぼ負担をかけずに発揮することができる。


 不死鳥たちは、周りの葉っぱを集めて球体を作り出すとダンテに向かって勢いよく放つ。ダンテは、目にも止まらない俊敏な動きで軽々と球体を回避すると、大木の方まで一気に駆け抜ける。


 今までとは比にならない彼の動きを見て、不死鳥たちはさらに警戒を強める。不死鳥たちは即座に甲高い鳴き声を上げ地面から植物を生やし、壁を作る。


 壁によって道を完全に塞がれる前に、ダンテは、左右に移動し、お構いなしに大木まで突っ切った。


 大木まで来た。後は、この大木を切り落とすだけだ。イメージするんだ。この大木をスパッと切り落とすイメージを。


 ダンテは、駆け抜けた勢いのままに大木のところまで飛びだすと目をつむり大木を断ち切れる武器を強く鮮明にイメージした。


 彼が大木を切り裂くためにイメージしたのは、巨大な斧だ。昔ら、何度も斧を使い薪を割って足腰を鍛えていた。その経験から、自ずと彼は巨大な斧にメイテツを変形させていた。


「薪を切る要領で、この大木を断ち切る!」


 ダンテは、巨大な斧を横に勢いよく振り大木を断ち切ろうとする。


 その間、大木を断ち切られまいと、不死鳥たちは地面の根っこを操り、ダンテに向かってグッと伸びて、彼を拘束しようとする。


「うおぉおおおおおおお!!!!断ち切れろぉおおおおお!!!!」 


 ダンテは、迫りくる根っこのことは気にも止めず目の前の大木を断ち切ることだけに集中する。腕の筋肉を隆起させると、渾身の力を乗せた斧を大木の巨躯に食い込ませていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る