32_絶対絶命

  不死鳥たちは、神殿の侵入者に向かってギロリと鋭い眼光を輝かせる。ダンテの実力を知り、ようやく本気を出すに値する侵入者であると認識したようだ。


 真ん中の大木から生まれてきた不死鳥たち。彼らは大木に近寄らせらないようにしているように見えた。ダンテは、不死鳥たちの動きを観察しながら、一つの仮説を立てて試練攻略の道筋を考える。


 狙うは真ん中の大木。おそらくあの大木が不死鳥の心臓にあたる部分だ。


 試してみるか。


 ダンテは、大木がこの試練の攻略の鍵と考え、不死鳥たちを無視して大木に的を絞って前進した。


 だが、簡単には大木に行かせてはくれない。不死鳥たちは大木に向かうダンテに憤怒に満ちた鳴き声を響かせる。その鳴き声に呼応するように地面から植物が勢いよくニョキニョキと生えてきてダンテの進路を瞬時に防ぐ。


 道をふさがれた。やっぱり、大木に接近されるのを嫌がっているみたいだ。大木を狙いに行く方向性は、間違ってはなさそうだ。


 ダンテは、自分の推察が的外れではないことを確信し、なんとか不死鳥たちの猛攻をかいくぐろうとする。だが、凄まじい強風と植物による守りに阻まれ、まともに大木に近づく事ができない。


 それどころか徐々に彼の方が追い詰められていく。 


 ダンテを囲うようにに、植物の巨大な壁が出現する。植物でできた重厚な壁がその見た目とは裏腹にものすごい勢いで彼を押し潰そうと迫る。


 あの壁は、今の俺では瞬時に破壊できない。このままだと、押しつぶされる!?


 四方から迫る植物の壁に視線を向けた。一瞬の判断の遅れが、死に直結する状況。ダンテは、自らの直感を信じ、壁に押しつぶされる前に、左腕を長いムチの形に変形させる。


 唯一の逃げ場。上だ。上空に逃げるしかない。


 左腕のムチを勢いよく振って、上空を飛ぶ不死鳥の一体にくるりと巻きつける。


「メイテツ、頼む!」


「ええ」


 ダンテは、メイテツにそう言うと、ムチの長さを伸縮させ、地面を思いっきり蹴って上空の不死鳥のところまで一飛びする。


 ガシャン!


 直後、彼の真下で迫っていた植物の壁がガタンとぶつかる音がした。


 危なかった……。少し、遅れていれば、ぺしゃんこになっていたところだ。


 真下で植物の壁同士がぶつかった光景を見て、ダンテは肝を冷やす。


 危機を脱したのもつかの間、ムチを巻きつけた一体の不死鳥は両翼を激しく羽ばたかせ、寄りかかる彼を振り落とそうとする。


 空中でダンテは左右に揺さぶられる。


 振り落とされる前にやる。


 ダンテはすかさず、ムチから剣にメイテツを変形させると、不死鳥の首を断ち切り地面に着地する。


 とどめを刺された不死鳥はやはり光粒子とはならず朽ちた木のようになり地面の砂にじわりと溶けていく。


「はあ……はあ……はあ……」


 立て続けの攻防に彼は激しく息を切らす。額から絶え間なく流れる汗が地面にポチャリと零れて弾け飛ぶ。精神的にも身体的にもかなり追い詰められた状態だ。


 これは、本格的にまずくなってきたな。大木に行ける気が全くしない。


 息を切らすダンテに、不死鳥たちはゆっくりとバタバタと両翼を羽ばたかせて余裕たっぷりの様子で近づいてくる。  


 何かここから勝つ方法はないだろうか……駄目だ、思いつかない。


 ダンテは、今出しうる手を出し尽くしていた。彼の中で、この不死鳥たちに勝てる算段が全く思いつかない。


 彼は、圧倒的戦力差に絶望していると、後ろから元気のいい声がした。

 

「おじさんは、私が助ける!」


 身を隠していたカリンは、勇気を振り絞り姿を現すと、ダンテの方に小さな両手を向けていた。


 すると、ダンテの身体が、突如、神々しく輝き始める。


「なんだ、この光。力がみなぎってくるぞ!」

 

 見たこともない身体の変化に、ダンテは困惑しつつも、湧き上がる力に高揚感を抱くのだった。

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