23_特別な存在
ダンテたちは、突如現れた小さな訪問者を目の前にして、その場に凍りつき動けなくなっていた。
見た目は子どもだが、この子も魔族なのだろう。
子どもは黒い水晶玉を人差し指の上でクルクルと回転させ、ダンテたちに囲まれていても余裕のある様子を見せる。
全く隙がない。余裕を見せているようで周囲の警戒に抜かりがない。
ダンテは、唾をゴクリと飲み込み、子どもの出方を待つ。そんな彼の視線に気づいたのか、子どもはダンテの方にさっと視線を向けた。
「期待外れだったよ。もっと、実力があると思っていた。僕の生み出した魔族にここまで苦戦してるんだから」
僕の生み出した魔族……先ほど、戦ったラオムという魔族のことか。だとしたら、やはりこの子どもはラオムより遥か格上の存在ということなのだろう。
ダンテは眉をピクリと動かし、剣を構え直した。
子どもは、黒い水晶玉を両手から地面に落とす。落下した黒い水晶玉は地面に触れた瞬間、液状になり、子どもの影に溶け込んでいく。
子どもの能力はおそらく、影。影に関する能力だ。
ダンテは、子どもから放たれるなんとも言えない威圧感に、押しつぶされないように深呼吸をし精神を落ち着かせた。
「何を悠長にしている。フエン、邪魔者は、迅速に始末しろ」
いつの間にか、子どもの背後に立っていたのは細身で高身長の男だ。
どうやら、子どもの方はフエンというらしい。フエン一人でも厄介なのに、もう一人、得体のしれない人物が加わるのは、ダンテたちにとってかなり最悪の状況だった。
「カカ、楽しませてよ。こうやって剣士と会うのは、久しぶりなんだから。それに、この人間たちなら、すぐに倒せるしね。だけど、ひとり面白いやつを見つけた」
細身の男カカの言葉に、フエンは、微笑みを浮かべそう答えると、歩き始めた。
「全くマイペースなやつだ」
カカは両腕をがっしりと組み呆れた様子を見せる。
「君には、とてつもない才能を感じる。魔族になる素質がね。仲間にならないか」
フエンは、ゆっくりとギリの前まで歩き立ち止まるとそう言って、手を伸ばした。
「なんだと……」
ギリは、フエンの言葉に唖然とし思考がまとまらない。完全に不意をつくような言葉だった。
「魔法が使えなくなった今、君は無力だ。魔法の才能があるのに、それでいいのか。僕達なら、君に力を与えられる。君は特別になりたいんだろ?」
フエンは追い討ちをかけるように、ギリの心を揺らす言葉を浴びせる。
実際、ギリの心は大きく揺れていた。幼少期の記憶が頭の中で蘇る。
「あなたには特別な才能がある」
「あなたは特別な人間にならないといけない」
亡き両親から、何度も洗脳するかのように投げかけられた言葉だ。ギリの心の奥底で、他とは違う特別な存在ではなくてはならないという思いが根付いていた。フエンの言葉をきっかけに、奥底に蓋をしていたその思いが一気に泥水のようにブクブクと湧き上がる。
「「ギリさん、そんな奴の口車に乗らないでください!」」
コウとヒイが、ギリに叫ぶも彼らの言葉は彼には届かなった。
「俺は、特別になりたい」
ギリは、自ずと手を伸ばしフエンの差し伸べた手を掴んでいた。
確かにあのギリという少年からは、魔族と同様、もしくはそれ以上の力を体内に宿している。
ダンテは、フエンが仲間に引き込もうとするギリを見て、考えを巡らした。
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